Tomorrow is another day〜Another K-ON!〜


□#7 つながるもの
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 7月に入り、梅雨も明け、空は青さを増し、雲は白く大きくなり、その狭間を縫うように、太陽が燦々と地上を照らしている。その熱気はまさに夏。いよいよ夏がやって来た。
 高校生になって初めての夏休みも、もうすぐそこまで迫っている。
 これでテンションが上がらないわけがない。
 気持ちは既に、夏休みをどう過ごすか……に、傾いていた。
「って、オミくん! 夏休みの前に期末試験があること忘れてない?」
「えっ!?」
 そう……。
 今は放課後。例によって部室へと向かっている。
 今日も掃除当番だったため、直接部室に向かったのだが、同じく掃除当番だったらしく、梓先輩と一緒になった。故に、二人並んで部室に行く、その途中なのだが……。
「夏休みも良いけど、その前の期末試験をちゃんとクリアーしないと……」
「うう……。耳が痛いです……っていうか、梓先輩! 人の心の中を読まないでくださいよー」
「何、言ってるのよ! オミくんの思考がダダ漏れてるの!」
「ダダ漏れ……、はあー」
 そう指摘され、思わず思考だけでなく溜め息まで漏らしてしまう……。
「オミくん! 期末は中間の時みたいに『追試で部活動禁止』なんてならないでよ!」
「は……、はあ……。善処します……」
「オミくん!」
「はい! わかりました!」
「よろしい!」
 そう言うと、梓先輩は満足そうな笑みを浮かべた。
(っていうか、何で俺……、夏休みを楽しみにしていただけで、お説教されてるんだよ……)
「はあー」
 そう思うと、また溜め息が漏れてしまう。
「また溜め息を吐くー」
 梓先輩は呆れ顔だ……。
「そういう梓先輩は、期末試験大丈夫なんですか?」
「うん! 私は一応、普段から勉強してるから。試験前だからって焦って勉強しなくても大丈夫かな!」
 それはまるで、優等生そのもののような答えだ。
(しかし……)
「勉強なんて、そんなに毎日するもんなんですかねー?」
「…………」
「…………?」
「オミくーん!?」
「は……、はい……?」
「オミくんは、普段からは勉強をしない人なのかなー?」
 途端に梓先輩の表情が、怖い笑顔に変わった。笑っているのに……怖い。
「えっ!? えぇーっと……、まあ……、その……、何ていうか……。あっ! ほっ、ほら! 自主練してると知らない間に時間が過ぎちゃったりしてる時ってありません!?」
「あ・り・ま・せ・ん!!」
「うう……」
 即行全否定され、項垂れる……。
 しかし梓先輩は『ない』と言ったが、俺はそういうことも珍しくなく、ベッドに入ってからでも気になるところを思いつくと、また起きてキーボードを弾き、気づくと二・三時間くらい経っていた……なんてことも少なくない。
 俺は体質的に睡眠時間が短くても平気らしく、それもその要因の一つかもしれない。
「ねえ、オミくん。前々から気になっていたんだけど、オミくんって一日に何時間くらい練習するの?」
「練習時間……ですか?」
「うん……。だって、オミくんが曲を覚えるスピードが異様に速いから……」
「速い……ですかね?」
「だって、入部して二ヶ月半程で六曲マスターして、今七曲目を練習中なんでしょ? いくら何でも速すぎない?」
 しかし、そう言われても、一日の練習時間なんて決めているわけではない。気分が乗れば五・六時間ぶっ続けで弾いている日もあるし、逆に集中できないと数分で終わる日もある。
「まあ、ざっくり四時間くらいじゃないですかねー。平均すれば……」
「ねえ、オミくん。自主練をするなとは言わないけどさー、いや、むしろ自主練をするのはとても良いことではあるんだけど、やっぱり勉強を疎かにしてはダメだと思うの。その四時間の練習時間の内、二時間でも勉強に使えないかなー?」
 口調は柔らかいが、表情は相変わらず怖い笑みを浮かべている。
「けど……、二時間って言ったら半分だし、そこまで普段から勉強する必要はないかと思うんですけど……。そもそも試験前一週間は部活動は禁止になるわけだし、その時間を使って勉強するっていうのは……」
「オミくん!」
「はい!」
 遂には梓先輩の怖い笑顔から笑みが消え、ただ怖いだけの表情となった。
「そんなこと言ってるけど、普段から勉強できない人は、試験前になっても他のことに気を取られて、勉強に身が入らないもんなんだよ!」
 確かにそう言われてみれば、中間試験の時も、一週間前どころか試験期間中でさえも、勉強に集中できず、キーボードを弾いていた……なんてことがあった。
 しかし、考えようによっては、それで追試が数学の一教科だけだったわけだし、それはそれで大したものだと思う。
「追試は一教科でもあったらダメなんですぅっ!」
「って、だから人の心の中を読まないでくださいって!」
「オミくんの思考がまたダダ漏れてたの!」
「うう……」
「いい? オミくん! 期末試験では追試は一教科も許しません! 後、他の教科だって『追試でなければOK!』みたいな低い目標も却下します!」
 まるで『ズイッ』と迫ってくるかのように、梓先輩から威圧感が醸し出される。
「はあー」
「また溜め息!」
「わかりました! それじゃあ、今日から毎日二時間勉強して、全教科平均点以上取ってみせます!」
 売り言葉に買い言葉……とでもいうように、つい出来心でそんな宣言をしてしまった。
「よし! それでこそ私の後輩だよ!」
 梓先輩はそう言って、俺の肩を『ポンッ!』と叩く。
 俺の宣言に満足したのか、“怒”の表情は既に消えていた。
 ただこれだけは、付け足しておかなくてはならない。
「数学以外は……」
「オミくん!」
「数学もです!」
「よろしい!」
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