novel
□もう一度会えたなら 1
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「センパーイ」
相も変わらず、死後の心電図みたいに平坦で、無駄に間延びしている声でオレを呼ぶフラン。机に両肘をつき、白く細い指を組んで顔…というか頭全体を支えている。
「なんだよ」
オレが面倒臭そうに返事をすると、フランは極めて変化のない声で、
「ミーって何でここにいるんでしたっけー」
とても括りのでかい質問をしてきた。
白蘭を倒して数日。
沢田綱吉は過去へと帰り、集まったキャバッローネや黒曜、そしてヴァリアーはイタリアに戻り、真六弔花の生き残りである桔梗とデイジーは何処かへと姿を消した。アルコバレーノの六人は、何かの事後処理だとか久々の会合(?)だとかで忙しいらしく、マーモンとはあれから結局一度も会っていない。
今日は久々の休日で、後輩兼好……のフランとひたすらだらだらしていた。
「はあ?記憶喪失かよ。それとも健忘症か?」
「センパイもそろそろ30歳ですし危ないですよねー」
ぐさ。
「ゲロ」
ナイフを投げると、外見さながらカエルじみた声を出すフラン。…いやまぁオレがさせてんだけど。
「いったいなー。違いますよー、考えてたらマジでわかんなくなったんですー。ミー、何でこんなとこに来てこんなことしてんのかなーって」
やっぱ惚気じゃん。
「…そんなの、マーモンが死んで霧の幹部がいなくなったからだろ」
オレ的には結果オーライだけど。
「なんか文句でもあんの?」
「ありありですよー、拉致っといて何言ってんですかー」
「いいじゃん、王子に会えたんだから」
「うわきもっ」
ぐさぐさぐさぐさ
「こんな幼気でかわいい後輩に暴力ふるうなんて信じらんないですー」
「オレはお前が人間だっていうのが一番信じられねぇよ」
フランは何食わぬ顔で肩に刺さったナイフを抜き、手の中で弄び出す。
「でもー、センパイって何気に優しいですよねー。全部急所外れてますよー」
「だって本当に死んだら困るし」
「………………………」
フランは急に口を半分開けて、長い睫毛を何度も動かした。…あれ、オレ今もしかして声に出した?
「あ……え、えっとぉ、その………か、代わりを探すのも大変なんだよ結構!別にお前だからとかじゃねーし!」
「…〜パワハラからセクハラへ〜暗殺部隊の実態……てとこですかねー」
「なんだよそのタイトル!」
王子としたことがカエルにデレる(?)という失態。
でも、最近フランの様子がちょっと変っていうか。
なんか真面目な顔で考え込んだりしてるから。
……別に心配してるわけじゃないけど。
ま、コウハイの面倒見るのも王子の仕事だしな。などと無理やりこじつけた理由を自分に言い聞かせた。
「なぁ……なんかさ、お前、その……最近、なんかあった…?お、王子暇だから聞いてやってもいいぜ!」
「どうしたんですかー、気持ち悪いですよー。やっぱりセンパイが脳外科か精神科にでっ!…ナイフしか投げれないんですかー」
ふわふわした声を少し低くして睨んできた。
そしてちっ、と舌打ちして、可愛くため息をついて。
刹那―いつもの中学生みたいな童顔が嘘みたいに、殺し屋のそれになった。冷たく鋭い眼光。指一本すら動かせなくなるような威圧感にオレが気圧されていると、不意にフランが口を開いた。
「……ベルセンパイは、ミーがいなくなったらどうします―?」