novel
□もう一度会えたなら 4
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走る、走る、走る。
城を囲む深い森の中を、朝から賑わう市場を、公園の大きな噴水の横を、仄暗く湿った狭い路地裏を。
空を見上げると、薄い灰青が水面のように何処までものっぺりと広がっていた。
自分はその下にいるのか。だから音が水の中みたいに遅れて鈍く聞こえるのか。でも色は絵みたいにしか感じられない。頭の中がぐちゃぐちゃしていて、自分の血を見たときみたいに何度も意識が飛びそうになる。胸がすごく苦しくて、張り裂けそうに痛い。自分は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
昨日のフランは本気だったんだ。
ただひたすらに、あの人間離れした翠の髪を視界に入れたかった。
謝る、とか、怒る、とか、何でもいい。会いたい。グラスとぶつかった氷の音みたいに涼やかで心地いいあの声。今まで見たどんな宝石よりも綺麗に透き通ったエメラルドグリーンの瞳。こんなに愛しいアイツのことを、オレは忘れてしまうのだろうか。いやだ。抱き締めたい。会いたい、会いたい、会いたい。
じわり、と浮かんでくる涙を前髪ごと隊服の袖で乱暴に拭う。
「どこ……行ったんだよ………」
フランが行きそうな場所ー…
「アイツ、と言えば……」
霧の幹部。数ヶ月前に入隊。毒舌。飄々としてる。骸の弟子。童顔。ナイフ刺しても死なない。…じゃなくて、もっと、
何したら機嫌が悪くなるか、好きな食べ物、趣味、生年月日、出身地。
「…………って……」
…オレ、任務以外でアイツと外に出掛けたことあったっけ?
足を止める。
オレ、段々フランのことを忘れてる…?
「嘘っ……」
何ヶ月か前に突然「ウチに入れる」とスクアーロが言い出した。骸が頼んでたんだってことは、白蘭を……あれ…白、蘭?
上手く、思い出せない。
まるで、誰かがオレの頭の中を覗き、弄くりまわしているような不快な違和感。
「っ……!?」
そして…線が点となり、次第には失くなるように、頭の中でじわじわと『何か』が侵食されて、消えていく。
「嫌だー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!!」
得体の知れないものを振り払いたくて頭を振るが、気味の悪いそれは嘲笑うように進むことをやめない。
「フ、ラン…!!オレは、フランをっ……」
言葉を途中でピタリと止める。なぜか思考が、どろどろと歪んだものへと変わっていった。