novel

□もう一度会えたなら 5
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真白なエーデルワイスが咲き乱れる広い丘。その中心でぽつんと立ち尽くし、フランは空を見上げていた。涼しげな風が周りの草花を優しく撫でている。だが、よく見るとフランの隊服や髪は全く揺れていない。

「…っ……」

あぁ、やっと見つけられた。名前を叫びたいのに上擦ってしまって声が出せない。最早棒のようになった脚に力を入れ、駆け出す。草を踏み分ける音が耳に届いたらしく、フランがゆっくりとこちらを向いた。オレを捉えた翡翠色の瞳に光が宿り、大きく見開かれる。今まで堪えていた糸が切れたのか、止め処なく頬を涙が流れている。

「ベル……セン、パイ…」

それは、初めて見たコイツの泣き顔だった。その顔を見るだけで、その声を聞くだけで、もう他には何もいらないってぐらいに愛しさが溢れ出す。

「なんで……あんなこと言ったんだよ」

二分ほどするとけろっと泣き止んだフランに、若干不機嫌が残留している声をかける。

「えーっと…湿っぽいままいなくなるのってミーっぽくないから不採用だなー…って」
「馬鹿……!」

オレより一回りも小さい体を、ぎゅうっと力一杯抱き締めた。「おーベルセンパイがデレたー」とか言ってるけど気にしない。もう絶対に離したくなかった。

「そんな嘘、つかなくていーんだよ。どうせ、オレやスクアーロ達を最後に悲しませたりしたくなかっただけだろ」
「さて、どうでしょうねー…」

辺りをふわふわと漂う声は、すぐに風が吹き消してしまう。それでも、腕の中の温もりは確かに一人の人間の存在を証明していて、オレは確かめるように少しだけ腕に力を込めた。フランは暫くじっとしていたが、不意にこてん、と糸が切れたようにオレの肩に頭を預けた。人肌のくすぐったい感触が隊服越しに感じられて、オレは自然に口元を持ち上げる。安堵の息が漏れ出た。間に合ったのだ、と。だけど、その思いはすぐに絶望に変わる。

「おわっ!?」

突然、灯りが消えるようにフッと腕の中の感触や温度がなくなり、視界いっぱいに草花が広がったかと思うと、そのまま思いっきり顔面を強打した。状況が把握できなくて、眼前に星が舞ったままぼうっとしてしまう。

「あー……やっぱ今日なんですねー」
「なっ…」

間延びした声が頭上から聞こえる。無様にも地面に落ちたティアラを拾い上げながら振り返ると、背後の風景が日食みたいにじわりじわりとフランの輪郭を侵食していた。背中に冷やりとした感覚が走る。

「左手とかもうほぼ消えてますしー。この辺で、さよならみたいですー」

フランは、そう言ってオレの前で手をぶらぶらと振ってみせる。
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