novel
□もう一度会えたなら 3
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「? 何だい、そんな顔して」
マーモンは確かに帰ってきた。だけど、“そこ”じゃない。
「僕が目を覚まさせてあげようか?1万ユーロで」
なんで。
「そ、こは……フラン、の場所、だろ………」
枯れているような声で、言うけれど。
「……ベル?何言ってるの?」
マーモンを含めた全員が、オレのことを奇怪なものを見るような目で見つめていた。
「何、言ってんだよ……!お前ら、頭おかしいんじゃねーの?忘れたのかよ?誰だよ、穴が空いた霧の幹部の後任は。誰だよ、ジルの野郎を一緒に倒したのは。誰だよ、真六弔花との闘いでムカつく幻覚作ったのは。ずっと、バカみたいにカエル被って任務やって、毒舌で、慇懃無礼で、何でも棒読みで、」
近くにいたスクアーロの胸元を、縋るように掴んだ。
「おい、スクアーロ隊長!忘れたのかよアホのロン毛隊長って言われたの!」
「んな゛っ!!誰がアホのロン毛隊長だぁ!!!」
スクアーロの怒号を受けて響く耳鳴りを無視して、
「レヴィもルッスーリアも!!変態雷オヤジとか変態クジャクオカマとか言われてたじゃん!!」
「何ぃ!?」
「んまっ 新しいわねぇ?」
各単語にショックを受けているレヴィと頬に手を当てているルッスーリアとの後ろを通り過ぎ、一際立派で荘厳な椅子まで歩く。
「ボスッ……!」
近世イタリア風の細かい装飾が施されているテーブルに勢いよく両手をつく。燃えるような深紅の両眼がゆっくりとこちらを向いた。ライオンすら怯ませるような眼光に反射的に身が竦む。普段なら、絶対ボスに無意味に話しかけたりこんな近くに行ったりしない。正直、恐い。
でも、
「ねぇボス!ボスは覚えてるよね!六道骸の弟子の、フラン!骸が、ボスに頼んで、ヴァリアーに置かせてた!緑の、髪の、」
瞬間ー
轟音が耳を劈く。土煙が上がり、パラパラとコンクリートの小さな粒が天井から落ちてきた。硝煙、そしてオレの髪の先端が焦げる匂いと熱線のような頬の熱さに、一瞬浮きかけた意識が連れ戻される。ボスの右手には、目映い橙の輝きを放つ球体の炎を秘めた拳銃。
「………るせえ」
あと一言でも話したら殺す、という意思表示が込められた重々しい声。
ボスも、スクアーロも、ルッスーリアも、レヴィも、
白蘭を確かに倒した全員が、
「……っ…………」
センパイ、って、不安そうな顔で言ったアイツが、脳裏に微かに、
浮かんだ。
走る。
そんなはずない、だってオレは『ヴァリアーの幹部であるフラン』を覚えてる。部屋だってあるし、アルバムには写真だって挟まってるし、書類とかを見ればー
フランの部屋の扉の取っ手をひっ掴み、力まかせに引き開ける。
「フラン!!」
部屋を見渡す。
あり得ないぐらい厳重な防備の金庫と、装飾はシンプルだけど高そうな長方形のテーブルと、セットの小さな椅子。泣きそうなぐらいに18年前から見覚えのあるー
「…………………」
部屋を出て、オレの部屋に向かいアルバムを開いた。不自然なところは何もなかった。でも、アルバムを何枚めくっても、昨日までいたオレの後輩はどこにも写っていなかった。
「…………………嘘、だろ……」
ふらふらと立ち上がり、部屋を出る。
もう、書類を探す気にはなれなかった。
センパイ、どうしてミーは生きてるんですかー
頭痛よりひどく響く声が、メリーゴーランドみたいに回る。回る。回る。回る。
ベルセンパイは、ミーがいなくなったらどうしますー?
フランがいなくなったら、オレは、
「…………」
多分ぐちゃぐちゃに壊れる、のかな。
城を飛び出した。