novel
□もう一度会えたなら 4
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『フラン』は、いきなり攫われて、前任がどーたらって被り物被らされて、カエルとか呼ばれて、ナイフ刺されて。それでも初めて、心から助けを求めたら、突き離されて。忘れられて。
世界から“なかったこと”にされた存在。今は何処かで、ひとりぼっちで、この世界での自分の消滅を待っている。…まだ待っている、といい。
『フラン』は、オレといて幸せだったのか?
運命が補正されて、骸のもとで黒曜にいた方がアイツにとっては幸せなんじゃないか?
遠い喧騒に心が紛れて、そのまま見失いそうになる。
揺れる視界。麻痺しそうな心。動かせない指。
何を思い出そうとしていたのかなんて、もう。
熱を帯びていた頭から使命感と寂寥感が拭い去られていく。
「………なんだ、じゃあオレ、走る意味なんてないんじゃん」
自嘲を過分に含んだ笑みを浮かべ、オレはゆっくりと踵を返す。夢遊病者のようにおぼつかない足取りで、ふらふらと二、三歩歩いた。
「うししっ、馬鹿馬鹿、し……」
ひとりぼっちは、いやですー
「、っ」
考えるより先に、足が動かなくなった。
小刻みに震えていた小さな肩を。今にも光が消えてしまいそうだった暗い深緑色の瞳を。探るように、自信なさげにオレを掴んだ、真っ白な手を。
「あ、…っ……」
不意に、初めは脳内に響いた幽かな声が。
曖昧な輪郭をなぞり直すように。
風化してしまった色を鮮やかに塗り直すように。
暖かく、柔らかく、オレの体中を駆け巡る。
走り出した。絶対に城を飛び出したときとは違う。
次の世界でフランは何処にいるのか分からない。お互いがお互いを憶えていないかもしれない。でも。
その前に。この世界の、ヴァリアーの、“フラン”がいる。オレは忘れていない。“なかったこと”になんかしていない。
待っていたらいい、じゃない。
フランはオレが守るんだ。
「はっ、はあっ、はあっ、はあっ…………」
いつのまにか、結構な場所まで来てしまった。
レンガ造りの赤っぽい家々が目立つ町中を見渡せる、小高い丘。その更に向こうに、大きな森が見える。
どこへ歩いていけばいいのか分からなくなって、ふらつきながら柔らかな土と草を踏み、とりあえず高い方へと向かう。ここには、一本の大きな林檎の木があったなぁ、といつかの記憶を思い出していた。
と。
突然、やわらかな風景に似つかわしくない物騒な黒服を纏った小柄な青年が立っていた。
真空に放り出されたような衝撃。
その体には有り余る大きな街を背負って―
フランが、立っていた。