novel

□もう一度会えたなら 5
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「絶対、絶対だからな。また、こうやって。王子と、手繋げよ」

そう言いフランと指を絡めようとするが、距離感を間違えているみたいに触れない。何度も指と指がすり抜けた。頬を伝って落ちた光る粒が、ゆらゆらと風に揺られて何処かに運ばれていく。

「オレ……やだよ、お前がどっか行っちゃうの。せっかく、好…後輩ができたと思ったのに。いくら王子だって、天才だって、お前一人助けられなかったら、意味、ねぇじゃん…」

フランは目の前に立っているのに、気配と匂いは気を抜けば全く感じられない程度に薄れている。何一つ出来ない自分の無力さに腹が立って、爪が食い込むくらい拳を握りしめた。

「オレの側にいろよ、ずっと…」

フランは、オレから素早く目を逸らした。妙に焦るような素振りをしたのは気のせいだろうか。

「……なんですかー。アホのセンパイらしくないですよー」

しかしすぐに微笑みながら、今にも消えそうなその右手をオレの頬にそっと添える。最早感じられないはずの温もりといつもより暖かな声色に、取り乱していた気持ちも落ち着いていった。

「じゃあ、もう一つ約束してあげます…。ベルセンパイの方が先にミーのこと思い出してくれたら、堕王子から、堕、取って呼んであげますよー」
「 …王子、って言え…。じゃ、オレもフランが先に気付いたら、すっげーご褒美やるよ」
「なんですかー」
「ししっお楽しみ♪」

ちぇっ、と不満そうな声を躊躇いもなくあげるフラン。
安心しろ、絶対にお前を思い出してやっから。そうしたら、今度は絶対離さない。あんな悲しい顔させない。そしてこの世界で出来なかった色んなことを、たくさん、たくさんしよう。
空一面に広がっていた薄い雲の隙間から僅かに、淡い青色が覗いた。遂に、フランの後ろにある町並みが透けて見え始める。同時に、何かの合図みたいに秋風が速度を増す。大きく身を揺らす大木。辺りに舞う緑の木の葉とエーデルワイスの白い花びら。

「…んじゃ。センパイ、待ってますよー」

いつもの気の抜けた顔と感情が読み取りづらい声。

「ん。お前こそ早くしろよ」

まるで、明日の任務の打ち合わせみたいに。

「とりあえずさよなら」

白い光が、フッ、と瞬いて辺り一面に広がった。


滲む世界から、『フラン』が消えた。










そして、









「ベルー。ほら、早くしてよね」











聞き慣れた声でオレを呼ぶのは、誰だ?
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