novel

□もう一度会えたなら 9
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「あ…えーっと……。オ、オレの名前はベルフェゴールだ!アンタとか、呼んでんじゃねーよ」

取って付けたような理由だけれどフランは特に疑問も抱かず納得してくれて、やれやれとでも言いたげに肩を竦めて溜息混じりの声を吐く。

「はいはいわかりましたよー、ベルセンパ…あれ?なんでミー、センパイなんて呼びそうになったんでしょう」

ーー…。
その呼び方には、心の奥にわずかに込み上げるものがあった。懐かしい、ような、焦がれるような。…何だ、コレ。王子こんな感情知らないんだけど。

「えーと、じゃあベルさん」
「……ん」

余所余所しい呼び方が、何故か無性に気に食わない。なんでだ?アイツは単なる六道骸の弟子で、今日初めて会った人間だ。オレは、何に苛ついているんだ。

「今日は恥っずかしい勘違いかましてくれましたけど、明日からもどうぞよろしくお願いしまーす」
「てっ…てめー!!!燃やす!!」
「きゃー、ここに野蛮人がいますー、野蛮人のくせに自称王子の不審者がいますー、オタスケー」

オレが投げたナイフ達を全てひらりと華麗な身のこなしで躱しやがりながら相手を挑発する口も止まらないところは、流石は六道骸の弟子だと言うべきところだろうか。
ポケットの中にある匣に純度の高い炎を注ぎたくなる衝動を抑え、駆けていく小さな後姿と過去の記憶との照合を試みるもやはり思い当たるところはない。それに、あの呼び方、なんだかトクベツなーー…

「んー……?」

リネンのタオルでやや乱暴に髪を擦ってみるが何も閃かない。歳が近いししかもオレより下だからかなぁ。妙な親近感が湧いただけか?ヴァリアーはオヤジばっかりで話題合わねーし。まぁボスは渋くてかっきーけどさ。
いくら考えても解けなさそうな疑問を無理矢理に落とし込み…それでも、どこか早鐘を打ち続ける胸を抑えてもう一度振り返った。
だけど、もう緑色の髪をした細っこい奴は廊下を折れた先まで歩いていってしまったようだった。…なんだか一人でぎゅうっと窮屈な心地がして腹が立つ。

「なんで王子がこんなイライラしなきゃいけないわけ…ふざけんなクソオカマ野郎…」

理不尽に棘を生やした言葉と裏腹のひどく沈んだ声に驚きながらも、オレは重い足を引き摺り長い廊下を歩いていった。
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