竜の丘

□第一章
1ページ/1ページ




第一章 呪縛


草花には聖霊が宿り、
風に乗って妖精が舞い、
天高く竜が昇る。

そんな一つの世界に、ある王国があったとさ。




王国は、優しき王と美しき女王により統べられ、
永らく平和な時が続いていた。

月満ちて愛らしい王女が産まれると、
元来身体の強くなかった女王は
命引き換えるようにその短き生を終え、
程なく後妻を娶る話が王国を巡る。

その噂は、王国の北を抉る黒き谷にも届き、ひっそりと息を潜めて機会を窺って来た一人の魔女を動かした。

魔女はその魔力で王国の者達を惑わし、新たな女王として君臨する。
幼き王女は、新しき母の元へと連れて来られた。
しかし、彼女のその琥珀の瞳を見た魔女は、身の震えを思わず隠さざるを得なかった。


――――この娘は、将来自分を滅ぼす者となる


魔女は、狩人を雇い王女を連れ去り殺すよう命令する。
更に彼女は、念を入れて王女へ呪いを掛けた。

狩人は彼女を連れ、東の森を走る。
魔女が懸念した通り、王女を不憫に思った彼は、そっと彼女を逃がそうとしていた。
王女を殺すよう渡されていた短剣を、彼女の胸の代わりに、狩人は地面へと付き立てる。

その刹那。

黒き光が辺りを覆ったかと思うと、光は茨の鎖となって王女に纏わり、
あっという間に黒き茨の茂みとなった。
狩人は慌てて茂みを掻き分けようとするも、呪いの茨に突き刺されて命果てる。
茨はその血を吸うと、より黒く茂みを深めた。

茂みの底に捕らわれし王女は、自身の代わりに命奪われた彼を想い、一粒の涙を落とす。
涙が落ちた地面からは、程なく一つの芽が息吹き、大きな蕾を付けた。
その蕾が花開いた時、中から小さな妖精が小さき羽をゆっくり伸ばすと、空へと舞い上がっていった。


姫の呪いを解くために―――










序章 ← | → 第二章



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ