竜の丘

□第二章
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第二章 仲間


その王国の東端に位置する、栄えゆくひとつの港町。
ある朝、その街中を駆け抜ける、一つの姿があった。

屈託のないその表情は、街の犬猫さえも友だちであるかのようで。

「久々の帰船じゃないかい?」
店の女将が通り過ぎゆく彼に声を掛ける。

「うん!半年振り!」
足を止めるのも惜しいかのように、走り抜けるまま彼は声を張った。

彼はそのまま港へと滑り込む。

「ヘースケ!」
逞しく大柄な一人の男性が船上から手を振っているのが見えた。

「父ちゃん!お帰り!」
彼もまた両手をブンブンと振って応える。

「あー!早く俺も乗りてぇなぁ!」
「──まだ漁師になる夢、変わってないの?」
我慢できずヘースケがそう呟いた時、思いがけず不意に隣から声が掛かった。

「ソージ!来てたのか」
ヘースケは隣に立つ友人を仰ぎ見る。
「漁師の息子なんだぜ、当たり前だろ!父ちゃんは俺の憧れだし。そう言うソージも、鍛冶屋を継ぐんだろう?」

しかし彼は、飄々とした表情を崩さずただ肩を竦めた。
「さぁね。今はまだあんまりそういうの、興味がないよ」
「えー、かなりいい腕してんだろう?勿体ねぇって!」

ソージは聞き飽きたと言う様に、だから興味がないんだってばと言いながらその場を立ち去ってゆく。

「──あいつは、いつまでああしてフラフラしているつもりなんだか」
またもや突然、後方から聞き慣れた声がして、ヘースケは振り返った。

「ハジメくんも来てたんだ!今日は休み?」
ハジメはコクリと頷き肯定すると、ヘースケの隣に立ちゆるりと港を眺めた。

「──親父さん、今回も大量だな」
「俺も早く海へ発ちてぇよ。ハジメくんはもうあちこち巡ってんだって?」

この街の神父である祖父を持ったハジメは、その見識ある才能を見込まれて、各処で街の人たちに囲まれているのをヘースケは何度か目にしていた。

「あぁ。街の人々の救いの手を受け止めるのは、我が家系の役目だからな」

驕るでも自嘲するでもなく淡々と自身の宿命を受け止めるそんな彼もまた、ヘースケの憧れであり古い友人だった。

「そういやサノがあんたを探していた。大方シンパッチがまた何かを拾ったんだろう」

彼のその言葉にヘースケの胸は熱く疼く。

「マジで?それを早く言ってよ!サノの店だよな、ハジメくんも行くだろ?」
「そのつもりだ。ついでにソージも連れて行こう」

ハジメが港で子どもとはしゃぐソージを顎で示すと、ヘースケもそれに応えてニカッと笑った。



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