竜の丘

□第十章
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第十章 竜窟


「やっぱりあいつが必要かもな」

意味深なことを呟いて、トシゾーが上空へと飛んでいく。
キィィィーンと微かに聞こえるか聞こえないか位の高音がしたかと思うと、彼らの目前で小さな竜巻が起こった。
竜巻の中心から現れたのは群青髪のエルフ。

「お前は、あの時の・・・・!」
「確か・・・・キョウ!」
「何だよ、呼びつけやがってよ」

キョウは不服そうな口振りながらも、周囲を見渡してヒュゥと口笛を吹いた。

「俺の力が必要って訳だ」

舞い降りてきたトシゾーは、ヘースケたちにキョウはこの北の谷に詳しいんだ、とだけ一言言うとそのままキョウに振り向いた。

「キョウ、この鍵何だか分かるか?」
ヘースケの持つ鍵を示す。
キョウはそれを見て目を細めた。

「竜窟の鍵だな。そうか、奴はやはり『あいつ』を手に入れてたってことか」
「あいつ?」

皆の視線がキョウに集まる。
トシゾーは途端に顔を曇らせた。

「竜窟だって? それじゃぁもしかして『カオル』が・・・!?」
「そうだ。カオルが捕らえられた可能性は高いな。てぇことは城の竜共は・・・・」
「カオルが竜神になってるってことか!」

「ちょっとちょっと、お二人さん。盛り上がってるとこ悪いけど」
ソージが痺れを切らしたという風に口を挟む。
「僕たちにも分かるように説明してくれないかな」

口を噤んだ二人は、暫し何やら目配せし合い彼らに向き直った。

「その鍵がキョウの言う通り竜窟―――んーつまり、竜たちの住処の鍵なんだとしたら、カオルが魔女に捕らえられたってことなんだ」

「だからそのカオルって誰なんだよ」
幾分苛々とした口調で声を荒げたのは、いつの間にか意識を取り戻していたヘースケ。

トシゾーは彼らをゆっくりと見回した。
「カオルは、魔女の息子で―――チヅール姫の兄上だ」

彼の口から告げられる新たな真実に一同に動揺が広がる。

「ちょっと待って・・・!魔女の息子で、チヅール姫の兄って・・・」

腹違いの兄妹って訳よ、とキョウがそんな彼らの胸中はどこ吹く風と言う様に口を挟んだ。

「そのカオルって子が、魔女が魔力を持つ前に国王との間に出来た子どもだったなんてね」
彼らの話を一通り聞いた後、ソージが纏めるように言葉を紡ぐ。

「で、程なくして后との間に正位を持つ姫、つまりチヅール姫が御生まれになったもんだから、不本意にも城を追い出された。彼女は子どもと共にこの地に逃れ、次第に彼女は自身の酷い扱いに狂い、黒い魔力に染まってったってことか。ってことは、今の城の有様は奴なりの復讐って訳だ」

トシゾーは頷き、説明を続ける。
「俺たちはカオルを竜窟に匿った。竜に染まる可能性もあったんだが、あの時はそうするしかなかった」

「竜に、染まる・・・?」
聞き返すヘースケに、辛いことでも話すかのようにトシゾーは顔を歪めた。

「この地は、特に竜窟は竜の気が強い。その気に当てられると竜化することがある。いや、恐らくカオルはすでに竜化している。そうでなきゃ、あそこまで城に竜がのさばってる理由がつかねぇ」

言うべき言葉が見つからず口を噤む一同に、トシゾーがやるべきことを告げる。
「カオルを助け出さなきゃならねぇ。半分とは言え、姫と同じ血が流れてるんだ。姫を救うには彼が必要だ」

そして恐らく、とキョウが続ける。
「魔女を倒す為、いや、彼女を『戻す』為にもな」

誰かがゴクリと唾を呑む。
ゾクリとするような生温い風が彼らの間を吹き抜けていった。





(良かったね、お望み通り竜でいっぱいの冒険じゃない)
(な、なんだよ。蒸し返すなって)
(なんなら竜窟で竜にしてもらって来なよ。そうすりゃ少しは水に慣れるかもよ)
(な・・・・っ!)
(本気にするな。ソージのいつもの冗談だ)
(やだなぁ、もうバラしちゃうわけ)
(お前のはいつも冗談が冗談に聞こえないんだよーーーーーーー!)



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