竜の丘

□第八章
1ページ/1ページ




第八章 竜神

慣れない環境と緊張に彼らは夢も見ぬほど熟睡し、目覚めたのはすっかり日の出た後だった。
しかし、依然目の覚める様子のない姫の様子に、もしやと淡い期待を抱いていた彼らは少なからず落胆する。

「眠れる姫と言えばさ。起こすにはあれじゃないの?」
ふと思いついたかのようにソージが口を開いた。
「王子様のキス」

ニッコリ微笑むソージにエルフたちの表情が固まる。
「貴様・・・・。もしやとは思うが・・・・」

ただならぬ気配を感じて慌ててヘースケが割り込んだ。
「で、でもよ、この中の誰も王子じゃないんだし・・・」
「そんなのやってみないと分からないじゃない」
「ま、それもそうだな」
ヘースケの言葉など気にもしない様子のソージと、意味ありげに口元を歪めるサノ。

「ちょっと待てよ、お前ら。ここはあれだ」
シンパッチが閃いたとばかり口を開き、ヘースケが味方を得たと安堵したのも束の間。

「順番に試してみようじゃないか」

かくして、彼らは二の句も告げぬまま小屋を追い出されてしまったのだった。


「ったく冗談が通じない人たちだなぁ」
「冗談に聞こえる冗談を言え」
「ま、冗談じゃなかった人もいるみたいだけど」
後方の二人を振り返りながらソージがニヤリと笑う。
ヘースケが振り返ると、ソージのそれ以上にぶつぶつと文句を垂れるシンパッチと彼を宥めるサノの姿が目に入り、口から思わず苦笑が漏れた。



彼らは城を目指して再び森の中を突き進む。
今はすっかり魔女に支配された城―――別名、竜宮。

北の谷を支配していた竜神をも支配下に置いた魔女は、城を竜たちに護らせていた。
森を抜け城下町に辿り着いた彼等は、かつては抵抗したであろうその街の行く末を見ることとなる。
所々が焼け焦げ、家々は見るも無残に崩れ、人の気配も完全に消されていた。

まずは竜を倒すのが先決と告げるトシゾーに、意を唱えるものは居なかった。
だが、なまじそんな大掛かりな敵と対峙したことのない彼等は思わず二の足を踏む。
しかし、トシゾーはそんな彼等の戸惑いなどお構いなしにどんどん街の中心部へと歩みを進めた。

最初の敵と対面したのは、城門に差し掛かろうとした時だった。

鳥のような羽音が上空でしたかと思った瞬間、紺碧の竜が彼等の前に舞い降りた。
身構える彼等を威嚇するように、竜は大口を開け空に向かって火を噴く。
思わず萎縮するその一陣から、抜きん出たのは一つの影。

―――ザンッ!

ソージが剣を振り上げ、竜の腹に一撃を食らわせる。
ギャオオオンと竜が嘶いた。

彼はその足で竜の後方へと滑り込み、剣を力の限り振り下ろすと竜の太い尻尾をザクリと断ち切った。

「す、すげぇ・・・!」
ヘースケたちは彼の活躍に思わず目を見張る。

ソージが剣を創るのみならず、実は使うのもかなり長けていたなど、平和な彼らには思いも寄らなかったのだ。
しかし、幼き頃から剣を玩具代わりにしてきた彼のことを思うと、またごく自然であるかのようにも思えた。

「何、ぼさっとしてるのさ」
向こうからソージの苛ついた声が飛ぶ。
「やる気あるの?ないの?」

「あ、ああ・・・」
促されて彼らもしぶしぶ加勢に向かう。
殆どソージの手柄と言っても過言ではなかったが、皆で力を合わせて、何とか最初の敵は突破することが出来たのだった。

ソージは身に付いた竜の鱗を振り払う。
「もしかしてそれってさ・・・」

ぴとりと張り付くそれに、ふと思い立ってヘースケが言葉を掛ければ、トシゾーが正解とばかりに顔を綻ばせた。
「勇猛凛々しく敏捷なる心持つものの証、青鱗の印だ。勇者よ、この調子でよろしく」

え?と振り返るソージの背後でまた羽音が聞こえるのだった。





(うわっ、また出た!)
(つーかよ、全部で何匹くらい、・・・いらっしゃるのかな?)
(俺が知る限りでは50匹くらいだな)
(・・・・・マジかよ)



第七章 ← | → 第九章



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ