竜の丘

□第二章
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彼等は連れ立って、サノの父親が経営する酒場へとやって来た。

戸鈴を慣らしながら薄暗い店へと足を踏み入れると、奥の席で人影が動くのが辛うじて見える。

「おーやっと来たか。こっちだ、こっち」
シンパッチが手招きして彼らを迎えた。

元海賊である彼の父親は、今でも海を荒らす奴らを時々『成敗』しているため、シンパッチはそんな彼から貰うのか、くすねて来るのか、いつも面白いものを見せてくれる。
ヘースケたちはそれをいつも楽しみにしていた。

「全く、待ちくたびれたぜ」
サノがそう言いながら、彼らの前へ抱えてきたジョッキを並べた。

「だから、いつも言うように酒は──」
「だから、いつも言うようにここには酒しかないんだって」
軽い調子でサノはハジメの非難を交わす。

「で、何なの、これ?」
そんないつもの遣り取りには目もくれず、ヘースケたちはシンパッチの手許にある一枚の紙切れを覗き込んだ。

「地図だ」
「シンパッチ…、そんなのは見りゃ分かるよ。だから、何の地図かって聞いてるんでしょ」
「さて、そこが問題だ。ハジメはどう思うよ?」

サノがハジメに振り返ったのを合図に、皆が一様に彼に視線を集中させる。
暫し紙を見つめて思案してから、ハジメはゆっくりと口を開いた。
「これはどう見てもこの国の地図だな。…ほら、この海の位置と湾の形、教会、谷と森の位置、全てがが酷似している」

「この森の外れにある、この印は何かな?」
ヘースケが紙の一点を指差した。

「何かいかにもそこに『何か』ありそうな感じだな」
シンパッチが腕組をしてうーんと唸る。

「何かって何?」
「そんなこたぁ知らねぇよ」
「……」
「……」

「…行ってみれば、分かるでしょ」
ヘースケとシンパッチの遣り取りにソージが口を挟むと、二人はあからさまにサッと顔を青ざめた。

「──け、結構あるぜ、それに…『あの森』だろ」
恐る恐るヘースケが言葉を発する。
そうそう、とシンパッチが受け継いだ。

「あの森は…『出る』って言うじゃねぇか。反物屋の息子が先週あそこに行ったっきり、まだ戻ってきてないらしいぜ」
声のトーンを落としてそう告げる彼に、ソージはニヤリと笑って顔を覗き込む。

「…ふーん、もしかして、怖いんだ?」
「バッ、バカ言うんじゃねぇよ!大方どっかで腹でも壊してぶっ倒れてるとかだろ、どうせ!」

ヘースケはその雰囲気に呑まれて思わずゴクリと生唾を呑み込んだ。
「───で、でも、ちょっと気になるよな。少し見て、すぐ帰って来れば大丈夫なんじゃねぇの」

その精一杯の強がりを感じたのか、サノが溜息混じりに同意する。
「しゃーねぇな、シンパッチとヘースケだけじゃ心配だから俺も付いてってやるわ」

「ま、待てよ!お、俺は誰も行くなんて──!」
「あんたたちも暇だな」
「そういうお前も勿論行くだろ、ハジメ」
「致し方ない。───ソージ…」
「はいはい…、僕はウチから剣を何本かかっぱらって来ればいいんでしょ」

で、と皆がシンパッチを振り返る。
「おめぇは行かねぇんだな、シンパッチ」
「あ、そうなの?じゃ留守番宜しく」
「〜〜〜〜っ!…い、行くよ、行くに決まってるだろ…っ!誰がこれ持ってきたと思ってんだ?あははは」




かくして、若き五人の勇者たちの冒険の幕は、こうして開けたのだった───




(ねぇ、ところでここに描いてる、この竜みたいなのって何かな)
(さぁ?…ただの、挿絵か何かだろ)
(何で竜の挿し絵があるわけ?)
(あ?そりゃ、雰囲気出るだろ。その方が)
(…本当に、それだけだといいけど、ね)



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