竜の丘

□第五章
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「木霊の印に、雪花の印か。少しは見込みのある奴らが来たぜ」
不意に聞こえた甲高い声に、彼等は辺りを見回した。

「何か・・・蜂が喋ってる」
ソージが目の前を飛ぶそれに向かって呟く。

「蜂じゃねーよ!おめぇら妖精を見たことねぇのか」
か細い腰に手を付いてプンプンとそれは声を荒げた。

「妖精・・・!?」
彼等は目を丸くしてそれを見つめる。
しかしそんな好奇の視線に構うことなくその妖精は続ける。

「俺はトシゾーだ。チヅール姫の涙から生まれた。魔女の魔力は凄まじいが、ここの精霊たちが彼女を護っている。そして俺たちは姫を救える勇者を待っていたんだ」
トシゾーは笑顔を顔に咲かせて彼等を見回したが、彼等のぽかんとした的を得ない表情に顔を曇らせた。

「聞いてんのか」
「えっと・・・、君は妖精でトシゾーっていうんだ。そこまでは分かったよ。で姫とか魔女とかって、一体なに?」
口を尖らせるトシゾーに、ソージが皆の疑問を代表して聞く。

「はぁっ!?姫を助けに来たんだろう?木霊の印も雪花の印も付けてるじゃねぇか」
トシゾーは顔を赤くしてシンパッチとハジメを交互に指差した。
彼等は驚いて顔を見合わせる。

「済まないがトシゾーとやら。あんたの言っている意味が分からぬ。俺たちはこの地図に従ってここにやってきたまでだ」
ハジメが裾から地図を取り出しトシゾーに見せた。

「竜の地図!やはりおめぇらは選ばれし者達だったんだな」
トシゾーの小さき瞳が再び輝く。

「あれが見えるか」
そう言って彼が差し示す方を見上げると、森の遥か向こうに黒い建物が見えた。
「昔はもっと美しい城だったんだが、今は見る影もねぇ。魔女に乗っ取られて以来、城下町も廃れちまった」
そうしてトシゾーは目を伏せ、魔女のこと、捕らわれし姫君のことを彼らに話した。


「姫を救ってくれる奴らを待ってた。俺は森の精霊たちと協力して、姫を救い、魔女に立ち向かえる勇者の素質を計ってたんだ」
そう言うとトシゾーはシンパッチに顔を向けた。
「おめぇのそれは木霊の印。友を思い支え助ける優しき心持つ者の証だ。そして」
今度はハジメに向く。
「それは雪花の印。真理を説き清廉宿す清き心持つ者の証」

シンパッチとハジメは自身を見、そして互いを見た。

「印はまだ他にもある。それらが全部揃う時、姫は目覚め、そして魔女は滅ぶ」
トシゾーの声だけが辺りに響く。
誰かがごくりと唾を呑み込んだ。

「姫が捕らわれているのはあっちだ。しかし救い出すのはちょっとやそっとって訳には行かねぇ。だから俺が出てきたんだ。おめぇらを導く為に」


「か・・・・」
「か?」
「かっこえーーーーー!」
くぅぅ痺れるぜとヘースケが呻く。
虚を突かれてトシゾーは目を丸くした。

「勇者だってよ!いいなぁ、シンパッチもハジメも印貰って!俺も早く貰いてぇ!」
疼くヘースケに、途端に気が抜けた一同が噴出す。

「まったく、ヘースケらしいね」
「面白くなってきたじゃねぇか」
「後戻りは出来ぬようだな」
「木霊の印かぁ」
闘志湧き立つ彼らに、トシゾーの顔にも笑顔が戻る。



新たな仲間を得て、彼等は更に森深くへと足を踏み入れるのだった。





(さっきから思ってたけど、ハジメは魔法使えないわけ?)
(は?突然何の話だ)
(なんか使えそうな格好じゃない。ベホマラーとかさ)
(ベホ・・・?何だそれは)
(なんだろうね)



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