竜の丘
□第九章
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第九章 黒谷
「ったく、こんだけ倒すのにどれだけ掛かってんだよ」
トシゾーがその小さな顔に眉を寄せる。
「そう言うなって・・・」
ヘースケの脚はもう立ち上がることすら拒否していた。
余裕そうにしているのはソージとハジメくらいなもので、何とか彼らに付いて行っていた後の三人はすっかり息が上がっていた。
「て言うかさ、ソージはともかくとして、ハジメは何でそんなに平気そうなわけ?」
滴る汗を手首で拭いながら、ヘースケはハジメを見やる。
「自己鍛錬も修行のうちだ」
淡々とそう答える顔には汗一つなかった。
何をやらせてもソツなくこなしそうなその雰囲気にヘースケはうっと息を呑む。
(余裕かましやがってぇ。歳はそう変わんないのになぁー・・・)
まぁそこが彼の憧れとするところなんだけれども。
でもそんなことは恥ずかしくてとても本人には言えたものではない。
(俺ももっと修行しないとな)
ヘースケはそんな風に決意新たにするのだった。
「でもよ、まだ半分も倒してないんだろ」
シンパッチが土埃を払いながらトシゾーを見上げる。
「ちょっと作戦変えたほうが良くねぇか?このままじゃ黒幕に行き着くまでにくたばっちまうぜ・・・」
うーんとトシゾーが腕を組む。
「仕方ねぇ、あそこに行くしかないか」
「あそこ?」
首を傾げるヘースケに、ハジメが顔を向けた。
「ヘースケ。あんたなら自分の秘密や大切なものをどこへ隠す?」
謎掛けのような物言いから察するに、彼は既に答えを知っているらしい。
「大切なもの?」
しかし未だヘースケには分からない。
「だからさ、ヘースケのやましい物とか色々あるでしょ。あれとかあれとかあれとか」
からかっているだけか、既に察しが付いたのか、ソージがニヤニヤして口を挟む。
「あれとか、あれとか、あれとか・・・・、って何もねぇよ!」
「ふーん。じゃぁこないだ見たあれは別にやましくないんだ。じゃぁ言っちゃおうかな」
「な・・・っ、ちょっと待てよ!何のことだよ!」
ソージのカマに簡単に掛かる平助。
「お前ら話がずれてんぞ」
サノが溜息混じりに呟く。
「そうだ、ずれてる!えっと、何だっけ・・・・」
「おいおいおい、だから隠し場所だろ」
あーそうだった、とヘースケは手を打ち鳴らし、うーんと顎を掴む。
「そりゃやっぱり、俺の家の俺の部屋、とか・・・・?」
「その通りだ。故に敵方の弱点を探るには・・・」
「奴の本拠地か!・・・ってそれって城じゃねぇの?」
まだ首を傾げるヘースケに、呆れ顔でトシゾーが口を開く。
「それは単に今いる場所だろ。奴の本当の住処は・・・・」
「そうか!北の谷だ!!」
叫ぶヘースケに、ご名答とばかりトシゾーが頷いた。
さぁ、北の黒き谷へ―――。