竜の丘

□第十三章
1ページ/2ページ




第十三章 魔女


「待ちわびたぞ」
魔女がゆるりとその口を開く。

「こやつが寝返ったのは少々計算外だったがな」
魔女の腕の中には、クタリと身体を委ねるカオルの姿があった。

「・・・っ!カオルに何を!?」
トシゾーが険しい顔を向けるも、魔女の表情は揺るがない。

「こやつが勝手に事切れたのだ。私の目を盗み、想念を飛ばすなど無謀な行動をしたが為に」
だが、と言葉を続ける魔女はさも愉快そうにその口を歪める。

「まぁそのお陰で手間が省けた。さぁどうする?お前にはよく分かっているのだろう?」

魔女が見詰めるその視線の先に、トシゾーが顔を俯けて口を悔しそうに閉じる。

「何しろこやつが居なければお前の力は戻るまい。のう?最後の勇者よ」

『最後の勇者』―――。

魔女の口から出たその言葉に、ヘースケたちは驚愕する。

勇者は自分たちだけだと思っていた。
何よりトシゾー自身がそう言っていたはず。


・・・否。違う。

ハタとヘースケの脳裏にトシゾーの言葉が響く。

『・・・印が全部揃う時、姫は目覚め、そして魔女は滅ぶ』

『全部』とは自分たちだと勝手に思い込んでいた。
しかし、彼は勇者が『自分たち五人』だけだとは言ってはいなかったのだ。

だが、トシゾーが最後の勇者・・・?

どう見ても小さき妖精のその身体は、勇者のそれに程遠い。
皆は一様にトシゾーと魔女とを見比べた。

「・・・チヅール姫の時間が戻った」
「そのようだな」
「間も無くチカーゲたちが姫を連れてくる」
「ほう」

苦しそうに言葉を紡ぐトシゾーに対して魔女の余裕は崩れず、傍目にも劣勢は見て取れるようだった。

ヘースケたちにはトシゾーの意図が分からない。

ふうとトシゾーが嘆息し、キッとその鋭い眼差しを魔女へと向けた。

「ソージ」

瞳を魔女に向けたまま、短くその名を呼ぶ。
突然名指しされ、え?とソージが顔を上げた。

「剣を」

彼の意味するところを聡く感付いたソージは、口の端を歪めて手の中の短剣を握り直し、そして剣を振り上げ魔女へと向かい床を蹴る。

魔女に達するかと思った瞬間、彼女はカオルをぐいと前に引き出した。
間合いを詰め過ぎて、ソージも急には速度を緩められない。

(このままではカオルが―――!)

刹那、小さな光が凄まじい速さでその渦中へ飛び込んだ。




「―――――え?」

魔女へと向けられたはずの、その剣先は。

「・・・な、なんで・・・?」

トシゾーを貫いていた―――



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ