竜の丘
□第十三章
2ページ/2ページ
ガクリとソージが膝を付く。
震える手の中にぐったりと横たえるトシゾーを、視点の定まらない瞳で見下ろした。
誰もが目の前の出来事に付いてゆけず瞠目する。
そんな中ハジメは思わず目を伏せた。
胸の奥がキリキリと軋む。
(また・・・)
脳裏に両親の姿が現れては消える。
収まることのない痛みが胸を抉った。
(助けられなかった)
非力な己に抱く激しい嫌悪感に吐き気がする。
いつも自分に出来ることは何もない。
あの時も。
そして今も。
項垂れる彼らの頭上に、ただ魔女の乾いた笑いが響いた。
「愚かな」
そう言って用の済んだカオルを放り出しトシゾーを見下すその姿に、誰もが自棄になって飛び込もうとした、その刹那。
彼らの行く手を阻むかのように一陣の風が大きく舞った。
「相変わらず無茶苦茶だよナァ」
嘲笑と、
「その行動力は認めるところですが」
穏静、
「一言足りぬのはあやつの悪い癖だ」
そして威風。
チヅール姫を腕に抱いたエルフたちが、彼らを背に魔女に向き合う。
「ご安心を。彼は死んではおりません」
クジューが目を瞬くヘースケたちを振り返った。
「・・・え?」
「奴が殺したのは所詮『仮の姿』」
チカーゲが魔女へと目を向けたままそう引き継ぐ。
「仮・・・って?」
ヘースケはソージを見た。
しかし彼の手の中にはただ剣があるのみで、いつの間にかトシゾーの姿が消えている。
ハッとしたように背後を振り返るハジメに、釣られるようにしてヘースケも後方を見やる。
「――――!」
そこには。
スラリと背の高い一人の青年が、瞳に鋭い威光を携え魔女を射抜いていた。
第十二章 ← | → 第十四章