竜の丘

□第十一章
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第十一章 黒竜


うーんとシンパッチが腕を組んで唸る。
「で、そのカオルってのを助けるにはどうすりゃいいんだ?」

「ここで立ち止まっていても拉致が開かねぇな」
答えの出ない沈黙を破ったのはサノ。

「鍵もあることだし、その竜窟とやらに行ってみるか?」


かくして一同はキョウの案内の元、竜窟へとやって来る。
岩肌を深く抉り、先の見えないその洞窟は闇へと誘う悪魔の口の如く。
奥から吹き込む風は、どこまでも冷たく季節はずれに背筋を凍らせた。

ヘースケが足を踏み込もうとすると、ザワリと嫌な気配が足元から立ち上り、入るのを躊躇してしまう。

「これがなきゃ入れねぇって」
キョウがその様子をどこか面白そうに見つめながら、手の中に光る鍵をクルリと回した。
ヘースケは一瞬その言葉の意味が分からずキョトンとする。

「結界か」
竜窟の入り口を確かめるようにあちこち触っていたハジメが逸早く察して口を開いた。

「そういうこった」
ニヤリと口端を上げながらキョウは鍵を洞窟に向けて差し出す。
一同はそんな彼を固唾を呑んで見守った。

「行くぜ」
「・・・・へ?」
「あ?なんだ?」
「い、いや・・・・」

何かしらの派手な音を期待して身構えていたヘースケは、何事もなかったように立ち入っていくキョウに思わず唖然としてしまう。

「物足りなさそうな顔だね。何か爆発とかするとでも思った?」
ソージがそんなヘースケの心情を聡く読み取ってニヤニヤと顔を覗きこむ。

「なっ!そんなんじゃねぇよ」
「ふーん」
「おい、お前ら行くぞ」
「あっ、待てって」
ヘースケは物言いたげにニヤつくソージを、軽く睨むと慌てて皆の後を追いかけた。



「結界は・・・」
「え?」

隣を歩くハジメが不意に呟く。

「見えない壁と称されるが、実際に壁を創るわけではない。何故かそれ以上立ち入りたくないような気持ちにさせることで進入を妨害する。・・・そして、無理やり打破されたりした時などは派手な音がすることが多いが、正当な手順で開かれると物音立てず開界されるのが普通だ」

一瞬変な独り言だなと思ったが、次の瞬間、自分が未だ拘っていたことに対して、わざわざ的確に説明してくれたのだと分かった。
思わず瞠目して見詰めると、蒼の瞳がゆるりと此方を向き視線が交わる。

「あっ、そ、そうなんだ。知らなかった・・・」

ヘースケは何故だか無性に恥ずかしくなって、思わず目線を逸らせた。
早鐘を打ち始める鼓動を抑えきれない。

(ソージも知ってたっぽかったし、もしかすると皆普通に知ってることなのかも)

ヘースケの気持ちは黒く沈む。

(基本的な知識も持たないで、冒険だなんて浮付いて・・・。ハジメも、・・・きっと呆れてるんだろうな)

チラリとその端正な横顔を盗み見る。
手を伸ばせばすぐそこに居るのに、憧れのその人は何処か果てしなく遠くに居るような気がして、ヘースケの胸はチクリと軋んだ。




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