竜の丘

□第十一章
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竜窟内は、酷く空虚だった。
どこか焼け焦げたような臭気が漂い、ぬるりとした冷気に満ちている。

どこからか竜が襲ってくるかもと、常に剣に手を掛け警戒していたヘースケだったが、やはり総てが城に借り出されているらしく、羽音一つ聞こえることはなかった。

「竜窟って言ったって、竜もいなけりゃ何もねぇじゃねぇか」

シンパッチがぼやく。
やはりここへ来たのは無駄足だったのか、誰もがそう思った時だった。

バサバサッと入り口の方から羽音が響き迫る。
瞬時に皆は抜刀し、入り口方向を睨んだ。
しかしこの狭さの中、万一火でも噴かれたらと思うと、誰もが背筋の寒さを抑え切れない。

皆が息を詰めて対峙の瞬間を待つ中、ついにそれは現れた。

今まで対峙した中では割と小柄な――それでいてその小ささを感じさせないのは、それが纏う威圧感からか、思わず息を呑むほどに美しい黒竜がそこに居た。

その琥珀の瞳が、ゆるりと彼らを見渡す。

誰もが、ソージでさえもその放つ威圧感に圧倒されてすぐには動けないでいた。
その刹那、一つの光が舞う。
飛び出したのはあろうことかトシゾーだった。

「ちょっ!馬鹿!危ねぇって・・・!」
「カオル!!」

ヘースケの声を遮ったトシゾーの言葉に、皆は思わず目を見開く。

「カ、カオルだって・・・!?」
「この、竜が、かよ?」
「殺気を感じなかったのは、やはりその為か」
「そうみたいだね」

驚くヘースケたちを余所に、ハジメとソージは早々と剣を収める。
そして、まるでそれが合図となったかのように、突如グラッと黒竜が揺らいだかと思うと、急激にその姿が縮み次の瞬間にはその場所に黒髪の少年が倒れていた。

彼らは駆け寄りその少年――カオルを抱き起こす。
成る程、言われてみればチズール姫の面影がよく彼に現れていた。

「探しに行く手間が省けたな」
「しっかし、気を失ってるみてぇだが、何がどうなってんだ?」
「魔女に捕らわれてるんじゃなかったっけ?」
「逃げてきた、とか・・・?」

「・・・何か、変だな」

口々に言い合う彼らの最後に、ハジメがゆるりと口を開いた。

「何か・・・って・・・?」

聞きながらも、ヘースケ自身もどことなくその不自然さを認めていた。
何か、そこに居るのに居ないような、気配があるのに実態はないような・・・

「想念を飛ばしてくるたぁ、カオルぼっちゃまも本気だねぇ」

ヘースケたちの疑問を、相変わらずの軽い口調でキョウが解消する。

「ま、俺に任せとけって」

キョウが静かにその手をカオルに触れさせると、ボウッと彼の身体が一瞬輝きを増し白い光に包まれてゆく。
そしてその輝きが落ち着いたかと思うと、カオルがゆっくりとその目を開けた。





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