竜の丘
□第十二章
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第十二章 紋章
ヘースケたちは再び城内を歩いていた。
何処も此処も不気味な程に静かで、嵐の前兆を思わせる。
ヘースケは先刻に思いを馳せた。
◇◇◇
意識を取り戻したカオルは、やはり何処か儚げで、まるで陽炎のようでもあった。
「カオル、何があったのか話してくれ」
トシゾーの言葉にゆっくりとカオルが言葉を紡ぐ。
自分がチヅール姫を目覚めさせる力を持っているのだということ、それが故に魔女である母親が自分を幽閉していること、魔力に狂った母親はもう自分のことも自身のことも分からず、自分以外の破壊の為に動いているのだということ、城でヘースケたちが竜と対峙した折勇者の存在を知り、自分の存在を伝えるためここまで想念を飛ばしたことなどを息も切れ切れに話した。
想念を維持するのが困難になりつつあるのか、彼の身体は時折風に揺れる煙の如く揺らめき、その度にどこか苦しそうに顔をしかめる。
「チヅール姫に、・・・これ・・・を」
彼は最後の力を振り絞るかのように手を差し出した。
その手の中にはキラリと光る一つのペンダント。
「王国・・・の・・・紋章・・・彼女に・・・力を・・・与えて・・・くれる・・・は・・・ず・・・。ここ・・・は・・・俺が・・・引き・・・受け・・・るか・・・ら・・・早く・・・・・・城・・・・・・・に・・・」
ついにその姿は立ち消え、言葉が宙を舞う。
カチャリとペンダントが地面に落ちた。
「んじゃ、俺が渡してくるぜ」
言葉にする時間も惜しいというように、ペンダントを拾い上げたキョウもまた早々と風と共に消えた。
「ここは俺が引き受ける・・・ってどういう意味だ?」
「うーーん、チヅール姫の様子を見に一度戻るか?」
「でも、城に行けって言ってなかった?」
彼らが話し合いながら竜窟から出たちょうどその時、西の空向こうから羽音が聞こえてきた。
見れば、その数は一つや二つではない。
彼らは慌てて岩陰に身を隠す。
一斉に巣に舞い戻って来たかのようなその大群に、誰もが目を瞬いた。
竜の大群は、隠れる彼らに気付くことなくバサバサと慌しく竜窟へと入ってゆく。
暫くして、また元の静寂がそこに訪れた。
「な、何だったんだ!?」
皆一様に驚きを隠せない。
「城を護ってるはずじゃぁなかったか・・・?」
「そりゃ、たまには帰ってくることもあるんじゃないの?」
「いや、それはねぇよ」
試しに口を付いたソージの言葉をトシゾーはすぐに却下した。
「何度か城の様子も実際見たし、周辺の聖霊たちとも交流を取って監視し続けていたが、竜たちが住処に戻ったなんて話は聞いたことがねぇ」
「じゃあ・・・」
言いかけたヘースケの言葉を遮るように、彼らの目前にまた風が舞う。
現れたのは赤髪のエルフ―――クジュー。
「姫様の時間が動き出しました」
開口一番に彼はそう告げた。