竜の丘

□第十四章
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第十四章 勇者


「いつから気付いていた?」
顔を魔女へと向けたまま、チカーゲの口から嘲笑が漏れる。

「あぁ?俺だってちゃんと分かってた訳じゃねぇよ」
鬱陶しそうにその青年がそれに答えた。

(誰・・・だ?)

瞠目してヘースケは彼を見る。
その顔には見覚えがあった。
(・・・いや、まさか。でも・・・)

「ただな」
青年が言葉を続ける。
「カオルの、・・・声が聞こえた」

ゆるりとチカーゲが彼へと瞳を向けた。
そのカオルは、いつの間にかキョウに抱きかかえられている。
皆は悠然と佇む青年と、キョウの腕の中のカオルとを交互に見やった。

「それに従えば『元』に戻れる気がした。それだけだ」

彼は言いながら、頭を軽く振り顔に掛かる黒髪を後方に払い除ける。
その仕草の麗しさにヘースケたちは呆然とその姿を見詰めた。
フンとチカーゲが鼻で笑う。

ヘースケたちは最早、呆然と遣り取りを眺めるしかなかった。
展開に付いて行けずポカンと開口する一行に、クジューが手短に言葉を投げる。

「トシゾーです」
「・・・・・えぇっ!」
「やはりそうか」
「お前っ!何が一体どうなっちまったんだ!?」
「人間・・・だったんだね」

「・・・済まなかったな」

その青年――トシゾーがあたふたと騒ぐヘースケたちを振り返って申し訳なさそうに苦笑を零した。

「お前たちを混乱させるような真似して済まなかった。俺は―――」
「久しいな」
トシゾーの声に、それまでただ静かに傍観していた魔女の方から声が重なる。

「狩人よ。姫を葬り損ねたその面を、また凝りもせず我の前に晒すとは」
「ケッ、よく言うぜ。てめぇが仕組んだ癖によ」
トシゾーはその端正な顔に憂鬱さを貼り付けて魔女を見やった。

(狩人?って、まさか・・・!トシゾーが・・・!?)

「なんだァ?あいつは何にも言ってなかったのかよ?」
戸惑う彼らの表情がさも面白いといったようにキョウがケッケと笑う。
「奴は姫を攫うべき命を受け、一度は茨に呑まれた狩人だ。妖精として蘇り人間に戻るまで、色んな呪いと魔法があったみてぇだなァ」

そう言って意味ありげに魔女とカオルとを見比べる。

「おしゃべりは後です。今こそ姫の呪いを解くべき時」
「説明してぇことは山ほどあるが、今はただ時間が惜しい。協力してくれねぇか」

煽るキョウをクジューが制し、トシゾーが改めて向き直った。
ヘースケたちは互いに顔を見合わせる。

「協力って・・・俺たちは最初からそのつもりだけど・・・よ」
「借りは後でたっぷり返してもらわなくちゃね。色々と憚ってたたみたいだし?」

シンパッチに続いたソージの言葉に、騙してたわけじゃねぇよと、トシゾーが小さく嘆息した。

サノとハジメがそれに続く。

「なんだかイマイチ良く分かんねぇけど……、まずは目の前のことを終わらせろってか」
「ならばすべきことをするまで」
「それに───」

ヘースケが屈託のない笑顔を向ける。

「仲間じゃん?俺たちは」

その言葉にトシゾーがふわりと微笑った。
そして、その眼光を一気に鋭くして魔女を見据える。

「キョウ、カオルはどうだ?」
顔は魔女へと向けたまま、トシゾーが声を掛けた。

「問題ねぇぜ。気を失ってるだけだ」
キョウは口角を上げてニタリと笑いそれに応える。

「そうか。なら『あれ』を頼む」
「はいよ」

たく人遣いが荒いぜとぼやきながら、キョウはカオルに自身の手を掲げた。
ボウッとキョウの手が輝き出す。
トシゾーは変わらず、眼光のみで魔女を牽制し続けている。



そして次の瞬間、

総てが白に、呑まれた―――



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