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□哀しくも確実な未来
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何の事はない、いつもの朝稽古の筈だった。

木片の激しくぶつかり合う音が道場に響く。
誰かのヒッと息を呑む声。
「わぁぁぁぁーーーーー!」
悲鳴とも取れる叫び声を挙げ平助が床を蹴る。
「━━━遅いよ」
わざと引き寄せるようにギリギリのところで総司が其を受け、反転翻して直ぐ様突きを返す。
「そんなんじゃ、すぐ死ぬよね」
「・・・・っく!」
平助も寸でで其を受け流し、間髪入れずに懐へ飛び込んだ。

「こ、こっちです・・・・!」
平隊士に導かれて道場に駆け込んできた斎藤は、その惨劇に思わず唖然となった。
周りをぐるりと取り囲み、おろおろとその場を観ているのは一番組の者達か。
そして、道場に霰もなく転がって居るのは八番組の者達に見えた。
中央で木刀を打ち鳴らし攻防戦を繰り広げるは、その組長二人。

一見、二隊同士の遣り合いのように見えた。
自隊を潰された組長としての威信を賭けた反撃。
しかし、何かが━━━。
斎藤には何かが引っ掛かっていた。
そんな単純なものでは無く、もっと━━━。
確信では無い。
だが、何時も共に居るからこそ感じる違和感。

(平助・・・・・?)
平助が怒っている。
本気で、総司を殺し掛けないほど。
其を受ける総司も、単なる仕合とは思えない程鬼気迫る殺気を垂れ流している。
命を削る攻防戦。
中途半端に割り込めば確実に此方の命に関わる。
どちらかが死ぬまで片が付きそうにないその気配に、手に負えなくなったのだろう。
斎藤は自分が喚ばれた意味を悟ると、一つ小さく舌打ちした。
局長と副長が不在の刻に。
否、だからこそだろう。
(まったく・・・・)
ハァと重く嘆息すると、斎藤は渡された二本の木刀を握り直した。

□□□ ◇ □□□

不平不満が体を為したと云わんばかりの総司と廊下で擦れ違う。
斎藤と眼が合うと、総司はプイと横を向いた。
斎藤は懲りずにまた一つ溜め息を溢し、その襖に手を掛ける。
「斎藤です」
声を掛けると、入れと中から声が掛かった。
「済みませんでした」
何よりも先に其の背中に詫びる。
其の広い肩がフッと淡く笑った。
「お前の所為じゃねぇだろう」
疲れている、と斎藤は思った。
その疲れの原因は自分に在る。
「いえ、御二方がご不在の折、屯所を任されて居たのは俺です。彼奴らの不始末は俺の責任です」
「不始末、ねぇ・・・」
嗤いとも溜め息とも付かぬ其を溢し、彼が振り返る。
「で、おめぇは其を聞いたのか?」
ソレ、と云うのは則ちあの騒動の原因であろう。
「いえ・・・」
正直に首を捻ると、彼は今度は明らかに嘲笑いを含ませた。
「まぁ、当の本人には言えねぇか」
当の、本人・・・・・?
「━━━え?」
だが、其の呟きは返ること無く背中に吸い込まれて行く。
「兎に角、平助は山南さんとこだ。あの馬鹿も手加減なしで遣りやがって・・・」
あの馬鹿、とは恐らく総司を指していると思われた。
平助の元へ行け、と云うことだろうか。
府に落ちぬまま一礼して斎藤は部屋を後にした。



 
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