戦国無双 夢部屋2 (越後)

□別れ
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景虎と景勝と与六の三人は綾御前の屋敷を訪れていた。綺麗な梅の花が咲く庭が見られる居室に案内され、茶菓が用意された。
三人の中で一番歳上である景虎は15歳であるが、綾御前にして見ればまだまだ子供に見えるようで、三人を可愛がっていた。
景虎は綾御前を「(何と美しい方だ…)」と見惚れていた。その横で景勝は自分の母親である綾御前に色目かしい目つきで見る景虎を軽蔑していたが、ここ最近になってよく綾御前の屋敷に行く事を誘われるので、「(何かあるな…)」と景虎を警戒していた。そしてその予感が後に的中する事になる。
景虎は綾御前との談笑を楽しんでいると、与六がもじもじしだした。
「どうしたのだ与六。」

景勝が気づき声を掛ける。

「な、何でも御座らん!」

「何でもない様には見えんぞ。我慢せず申せばよい。」

「そうですよ、与六。」

「む、では…その…廁へ参りたい……」

与六は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答えるとみんなが一瞬ポカンとした表情になり、その後笑い出してしまった。与六はますます居心地が悪くなり、思わず駆け出してしまった。
与六は廁の場所を聞きそびれてしまったが、景勝の元には戻り辛くしばらく館を彷徨っていた。
そこへ突然、伊勢姫の侍女 沙夜が通り掛かり思わず与六とぶつかりそうになった。

「うわあ!」 「きゃっ!」

二人は同時に声を挙げ後退した。
沙夜はこんな所に男の子がいるなんて思いもよらず、何故ここに居るのか疑問に思い声を掛ける。

「あの…大丈夫ですか?何故こちらに?」

「む、すまぬ。廁を探していたが迷ってしまったのだ。」

「廁でございますか。では、私がご案内致しましょう。」

「すまぬ。」

与六は沙夜に連れらようやく廁に辿り着く事ができた。沙夜はまだ幼い与六を心配して少し離れた場所で待つ事にした。与六が廁から出ると沙夜は 「あの、帰り道はお分かりになりますか?」と聞くと与六はさっき景勝達に笑われた事を思い出し、戻る事を拒んだ。
沙夜はどうしたものかと困り果てていると後ろから声が聞こえた。

「与六!」

声の主は景勝だった。景勝は戻りの遅い与六を心配し、「(もしや迷っているのか、笑われた事を気にして戻らんのではないか?)」と気になり、与六を探しに来た。
景勝の顔を見ると何か気まずそうに、下を向く与六を見て沙夜はただ二人を交互に見るしかできなかった。
与六はまだ6歳で景勝の小姓として出家し、召抱えられたが、景勝の元へ来て直ぐホームシックにかかり自力で家に帰ろうと、夜中出て行こうとしたりと手を焼いていた。そんな与六の面倒を嫌がる事なく接してくれる景勝に与六は懐くようになり、景勝もまだ幼い与六の面倒を見ている。
そして景勝は実家でもある綾御前こと母親の館の人間を全て把握していた。しかし、伊勢姫の事は知らされていないが沙夜の事は新しく入った侍女だと知らされていた。

「与六、そんな所で何している?用は済んでいるなら早く戻るぞ。」

景勝は与六の手を握り引っ張って歩き出そうとした。

「其方は確か沙夜と言ったな。」

突然、景勝に自分の名前を呼ばれて沙夜は驚く。

「え!?あっ!はい!沙夜と申します!」

慌てて頭を下げる沙夜は「(綾様の客人とはいえ、この子等は一体何者かしら?)」と疑問を抱いていた。

「与六が世話になったみたいだな、礼を申す。」

景勝は沙夜に向き直り礼儀正しく頭を下げ、礼を述べると与六を連れて立ち去った。しばらく廊下を歩くと今だに与六は不貞腐れた顔で下を向いて歩いている。景勝は密かにため息をこぼし、与六に話し掛ける。

「まださっきの事を気にしているのか?笑って悪かった。だから、機嫌直せ。」

景勝は足を止め目線を与六に合わせて言うと、与六は頬を赤く染めこっくりと頷いた。与六は普段みんなよりも寡黙な景勝に、自分にだけ見せる優しさや言葉に弱かった。景勝は与六の反応に、満足すると与六の頭を撫でて再び手を握り歩き出した。
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