トビ空

□―テンポラリー―
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一時的だ。

そう考えると合点がいった。

シュートまでのフォームが綺麗だと思うことも

くったくなく笑う顔を目で追ってしまうことも

話しかけられると自分のペースを保つのが難しいのも


それは全て


一時的だ。


―テンポラリー―


近頃よお自分が分からん時がある。

思い込みや勘違いは、時に人を全うな道から突き落とす。

だからの、一応あり得ない、とは流さずにちゃんと向かい合って考えてみたりもした。


馬鹿馬鹿しいとは思ったが。


確かに自分より数十センチ身長は低い。
しかし、それが綺麗やら可愛いと結びつくことはまずないじゃろ。

それは大体バスケの話で、あのチビ自体を全体でそう思った訳じゃない。

けど、実際そう感じた自分がいるのも確かで。


話かけてこられると、どう接していいか困るのは…何故だかワシにも見当がつかん。

だから、結局これも事実となる。


勘違いではないことが判明したところで、はいそーですかと認めるのもおかしい話で…


これは、一時的な気の迷いだと決め付けた。


それ以外思いつかなかった。


だからほとぼりが冷めるまで、チビに近寄らんようにしとった。



前からそんなにくっちゃべる関係だった訳じゃなし、別にどこも問題ない。


そう思った。


最初は。



身体が悲鳴をあげるくらい、チビ女の練習は走り込む。
なんらしてなかった先輩方よりかは、見た目もなにも自分の方が身体は楽だ。

こんなで騒いどったら試合なんぞ話にならん。

夜、校舎外が暗闇に覆われるまで練習は続く。

七尾が吹いた聞き慣れたホイッスルの音はいつしか部活終了を示した。

「お疲れ、じゃまた明日な」

「俺らも帰ろうぜナベ」

「あー…足が重てえ」


安原さんらを筆頭にダラダラと周りは部室を後にする。
部長は鍵があるため一番最後まで残るらしく、ワシもさっさとそこを後にした。


校門までの道を歩けば、門の所で人影が見えた。


遠目からでも何となく分かって、それはノッポとチビだった。

いつもならバラバラに帰宅することが多い中、ノッポはわざわざ自転車を押し、チビスケの歩調に合わせている。


そんな光景を見て、ざわりと何かが内を蠢いたのを感じた。


何を話しとるのか

なんで二人で帰っとるのか


なんでそんなに距離が近いのか…




暗い夜道の先にいるのに関わらず、チビの笑った顔だけがやけに彩飾を帯びているように見えた。


動けなかった。

ドクリと心臓が脈打ったと思えば、何とも言い難い焦燥感が身体を充たして


ただ、前方の二人を黙って見ることしか出来なかった…


それからだ、それから何かがワシを焦らせた。

動け、行動しろ

でないとソイツは違う誰かに…








―――取られるぞ

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