トビ空
□―屋上ランチタイム―
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お昼休み、それは待ちに待った空腹に、食べ物を詰めこむ事ができる素晴らしい時間。
身長を伸ばすためにも、ご飯は三食ばっちり食した方がいいに決まってる。
僕が小学校の時なんか、給食のためだけに学校通ってたようなもんで、危なく給食のおばちゃんに恋をするところだった。
「チビスケ、この間の借り、今日返してくれんかの」
そう、お昼休みって言うのは素晴らしい時間のはずだった。
僕はその考えを、ふてぶてしい顔してる恋人に、まんまとすり替えられてしまったわけだけど。
―屋上ランチタイム―
正直言って、
「トビ君、お腹減った…」
僕のお腹は極限です。
「知らん、」
「いやッ!そこは知っててお願いだから」
屋上、見晴らしの良いこの場所は、人は来ないし気持ちはいいしで、今や僕とトビ君のランチスポットだったりする。
ランチだ。お昼だ、昼食だ!
思い浮かぶは食べ物ばかり
「ねえ、聞こえてますか僕の腹時計」
「そんなポエムな時計音、ワシの耳には聞こえんの」
「……それちょうだい!!」
始まりは先週、負けたらご飯を奢る話でゲームをしたら、僕はまんまと彼に負けてしまった。
けど、結局トビ君が僕の分もその時払ってくれたりしてて、その約束を僕はすっかり忘れていたんだ。
「アホ、お前にやる分なんて欠片もないワ」
「ひどっ!それ、もとはと言えば僕のでしょ」
「いつ奢って貰おうが、ワシの勝手じゃ」
「…そうかもしれないけどッ、…何でトビ君が一人で食べてるの横で見てんの僕!!」
ポエムと言われた僕のお腹は煩いぐらいに鳴り響き、恨みがましくトビ君を睨み付ければ彼は意地の悪い顔をして笑っていた。
(ほんと、財布にお金をもっと入れとけばよかった…)
そんな顔している時のトビ君は、どうせろくな事を考えてないのを、僕は身に染みて知っている。
知っていたのに、僕は負けた…
空腹っていう育ち盛りには我慢出来ない欲求に…負けた。
「トビ君…」
「なんじゃ」
「すッ…」
「す?」
「……やっぱり無理だぁぁ!!」
憎たらしいほど真っ青な空に向かって叫んでしまった。
ああ、分かってたのに…
こういうことになるって事くらい…
「ほれ、分けて欲しいんじゃろ?頑張り」
「……欲し"い"」
可愛くおねだり、または告白
どちらか好きな方を自分に言えと、トビ君は条件を提示した。
(可愛くおねだりってなに!?)
よくわからない方は却下して、残りの告白を、僕はとったんだけど…
「あの…面と向かってって…ちょっととゆーか、かなり恥ずかしいんだけど」
「ちんたらしとると、無くなるで」
僅かな希望を持って掛け合ったそれは、見事にスルーされて、分け合う前提の焼きそばパンは一口、トビ君の胃袋へ消えた。
「あ"ぁーっ!」
「美味いの、この焼きそばパン」
もぐもぐと嫌みったらしく口を動かすトビ君に、本気で涙が出そうだ。
そもそも、僕のお腹は極限な訳で、目の前のパンは宝物な話で…
「…トビ君ッ!!」
言ってやる。この際背に腹は変えられない。
「すっ…」
僕は焼きそばパンが食べたい。
「すッ…」
そしてトビ君が真っ正面から僕をじっと見た。
(う"っ…)
「好き、ですッ」
顔が一気に蒸気して、勢いに俯いたまま、頭を上げられなかった。
(死にそう…)
聞こえるのは速い心音と、体を流れる血液の循環だ。
硬直したまま上履きを見つめて、体感が長いこれが終るのを待った。
きつく目を瞑り、気配でトビ君が動いたのが分かって…
「…ま、今回は勘弁したるワ」
声に反応すると同時に無理やり上を向かされた。
「んっ!?」
急な展開に目を見開けば、ドアップなトビ君の顔。
不法侵入を果たした彼の舌は、固形の何かを僕の口に押し込んだ。
「なっ!!」
「戦利品じゃ」
ぐらつく視界にトビ君を捉えれば、さぞ楽し気で
(本当に性格問題ありだッ!)
パンの味なんかちっとも分からなかった。
「……少ない」
「せっかちさんかチビ」
「半分ちょーだい」
「もうやったじゃろ」
「はい?」
目の前の彼と、嫌な予感に顔がひきつった。
「さっきのが分け合い分じゃ」
「!!」
パン一切れにあの仕打ち…
「トビ君!?」
「次はおねだり、頑張りや」
まっさらな空の下、空腹と羞恥に見回れる長い長い時間が始まった。
屋上ランチタイム
end.