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□校内放送
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『ピンポンパンポーン、あーあーテステス……はい皆さん、最終下校時間になりましたァ。学校に残ってるヤツら、さっさとお家に帰れやコノヤロー』
「………」
(アホっぽい放送)
太陽も沈み、すっかり暗くなった外を人工的な明るさの灯る教室から見る。
下にある校庭を見下ろせば、部活が終わったのかさっきのふざけた放送に従ったのかはわからないけど複数の生徒が門に向かって歩いていた。
なのに何故、あたしはまだこんな所にいるのか。
『あ、そうそう。今この放送を3Zで聴いてる女子、お前は反省文書き終わるまで帰んなよー』
その理由は、まぁ勝手にタイミング良く代弁してくれたヤツの言うとおりである。
「ってか校内放送でバラすなよあのバカ教師…」
あたしが反省文なんかを書かなきゃいけない理由。
それはサボリの常習犯だから。
学校には行くのだが、いかんせん授業は受ける気全くナシ。
そんなあたしは、朝の出席以降よく姿を眩ませていた。
ウチの担任もはじめは見逃してくれていたのだが、何でも校長に『反省文書かせて提出しなきゃ減給』と言われてしまったらしい。
眼鏡の奥のいつも死んでいる眼をこれでもかというくらい充血させて『反省文書いて!』と頼み込まれ、今に至る。
かと言って反省文なんて書いた事がないあたしは、都合良くその場限りの言葉が浮かんでくる筈がなく。
20枚程あった反省文用の原稿用紙には一枚一枚丁寧に「眠い」だの「お腹空いた」だの「銀八のバーカ」だの今の不満を素直に書き殴ってある。
でもそれだけじゃつまらなくなって、今はその紙で紙飛行機を作って飛ばしている。
いろいろなカタチの紙飛行機が教室中に舞い、そこら中に着陸している。
最後の一つを飛ばそうと構えると、いきなりドアが開いた。
「どーだぁ、書き終わったかァ?」
ドアのすぐ近くにあった紙飛行機をぐしゃっと踏み潰しながら、窓際にいるあたしまで歩み寄ってくる。
こいつこそ我がクラスの担任であり、あたしに頼み込んできた人間、坂田銀八だ。
「終わりましたよ」
「ってお前、全部紙飛行機にしてんじゃん」
「中身は書いてありますよ」
そう言って銀八に向かって持っていた最後の紙飛行機を投げ付ける。
(正確には飛ばした)
銀八はそれをいとも簡単に取り、ガサガサと開いた。
「………」
「じゃ、あたしは帰ります」
「いや、ちょっと待て待て」
「何ですか?」
「おま、これマジで?」
「?ええ、今のあたしの気持ちです」
何だろう一体。
あ、もしかして「校長死ねばいいのに」と書いた紙飛行機だったのだろうか。
(書いて折った後はランダムに飛ばしてたからわからないけど)
そんなに驚く事だっただろうか、と思いながら銀八の次の言葉を待っていると、銀八は踵を返してダッシュで教室を出ていった。
突然の担任の行動にとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか、と首を傾げていると、『ブツッ』とスピーカーから僅かな音がした。
『こンのシャイガールが!今時紙飛行機で告白はねーだろっ!』
そしてスピーカー越しに聴こえてきたのは、さっきまで此処にいた人物の声。
『俺も好きだっつーの!!』
校内放送
(何言ってんだこいつ…)
そう思って、さっき銀八が見ていたであろう紙を拾い上げて見てみると。
「好き」
とだけ書かれていた。
(あ、やば…)
自覚した時はもう手遅れ。
廊下から聞こえてくる足音に、逃げる事も、ましてやそこから動く事さえ出来なかった。