1
□試しにキスでもしてみます?
1ページ/1ページ
最近、ギロロ先輩が気持ち悪い。
…いや、気持ち悪いっつーか…うん、やっぱり気持ち悪いな。
俺は先輩に嫌われてると思ってた。
否、それは確かな事実だ。
なのに何故だか気付いたら隣に居るし、当たり前みたいにラボに来て武器の整備を始めるし、しかも突然何の日でもないのにプレゼントまで寄越す先輩。
それだけじゃない。
俺が誰かと会話をしていると間に割って入ってくるし、何かとキザで格好付けてくる。
いい加減、理解不能だ。
こういう行動をする先輩には見覚えがあるけど、それは夏美が絡むときだけの筈。
何で、俺?
まさか、俺を…なんてな。有り得ない有り得ない。
でもよく分かんないけど、なんか一緒に居れて嬉しいとか思うんだよな。顔ゆるむし。
何でなんだか…全然分かんねェ。
そうして今日も、先輩はラボに足を踏み入れて定位置となった俺の斜め後ろに無言で座った。
ガチャガチャと武器の整備する音が聞こえる。
もはや突っ込む気にもなれなくて、カタカタとキーボードを打ち込んで隊長に頼まれた新しい侵略兵器の設計図を作っていくと、不意に背後で動く気配がした。
振り返れば、設計図を真剣な目で見つめている。
…ああ、この人侵略馬鹿だったっけな。
「あとちょっとで完成するぜェ?」
「…いつも打ち込んでたのはこの設計図か」
「そーですねェ」
3日間だけだがな。
…もしかして先輩、技術開発とか参謀に興味があんのかねェ?
だから毎日のように通ってたのか?
素直に俺に頭下げる人じゃないからな。大方盗み見にきたってところか。
「頭を使うこと、覚えたんスねェ」
「は?」
「なんか質問あれば、受け付けますよォ?有料ですけどねェ。くくっ」
「…質問、か」
おや、やけに真面目な顔をしてやがる。
よっぽど地球侵略に煮詰まっちまってんのかね?
分からねえでも無いけどよォ。
…って、ん?
「…ちょ、先輩、近いんですけど」
じりじりと顔を近付けてくる先輩。
いや、待て待て、待て。
何なんだちょっと、え?
「…っ」
ぎゅっと目をつぶったのと同時に、ヘッドホンに囁いた先輩。
「クルルが好きだ。どうしたらいい?」
「…!?んなっ、ハア!?」
有り得ない言葉を囁かれて、頭はショート寸前だ。
バクバクと心臓が速くなって、顔が熱くなる。
どうしたらいい?って、そんなの俺の台詞だ。
「クルル」
「なっなっ…先輩っちょっと!」
「質問をしても良いと言ったのは貴様だろう?」
「言いましたけど意味が違ェ!」
なんなんだこの人。馬鹿なのか?いや、馬鹿だったな、間違い無く馬鹿だ。
…っていうか、え?先輩、俺の事好きって、どういう事?
「ぎ、ギロロ先輩…あの…」
「なんだ?」
「……す、好きって、なに」
…我ながら頭の悪い質問だと思う。
いや、だって意味わかんねぇんだもん。
「…クルルが、好きなんだ」
「いや、だから意味分かんねえッスよ」
「……クルルが、欲しい」
「ハア!?」
何言ってんだこのオッサン。
てか何ときめいてんの俺。
おかしいだろ冷静になれ、マジで。
「いや、あの…」
「クルルが好きだ。…いや、愛してる」
「…ッッ」
何この人赤ダルマのくせにさらっと何言ってんのちょっと。
普通引くだろ。
引くだろ、普通……なのに何で泣きそうなの、俺。
「クルル…どうしたら、いい?」
「どう…って…」
頭うまく回んねえよ、ああもうアンタが変なこと言うから。
試しにキスでもしてみます?
ああもう分かったわ、俺もアンタ大好きみてぇ