□都合良く解釈してもいいんだな?
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俺は家事なんか基本的に手伝い程度にしか出来ないし、そもそも料理なんてものは腹に詰め込めれば何でも良いわけで。

皿洗い、洗濯、掃除は出来る。
この辺は幼い頃に手伝いとしてやっていた。

まあ、流石に完璧とまではいかないが、俺も家を出て一人暮らしをする大人だ。
それくらいは出来る。

ただ問題は、料理。


「……はあ」


思わず溜め息が出た。

日向家の当番表に、何故だか俺の名前が加わっていて。

原因はまあ、言わずもがな緑饅頭…じゃなかった、ケロロのせい。

今日だけなのが救いだが、流石に料理というものを押し付けられるとは思わなかった。

夏美達が帰るのは、今から大体一時間後。

日向家の夕飯は、確か今日は秋が帰ってくるから凡そ三時間後。


何を作れと言うんだ。

ケロロには軍用食は禁止と言われている。

日向家にあった料理の本を見ていると、段々と頭が痛くなってきた。

無駄に分厚い料理の本。

大さじってなんだ?
少々って、アバウト過ぎやしないか。

簡単そうな料理程、説明がアバウトすぎる気がする。

…見慣れない本の内容に頭がチンプンカンプンだ。

自分が作れる料理と言えば……芋を焼くか、簡易なスープか、軍で習ったカレー。

…でも確か昨日、日向家はカレーだった気がする。

クルルが居たようだったし、多分間違い無い。

となればカレーはNGか。

他に作れそうな物なんて…。


「先輩、なに珍しいもん見てんスか?」

「ぅわっクルル!?」


突然料理の本が視界から消えたと思ったら、黄色い生き物が本をパラパラ見ながら嫌みな笑いをした。

突然の来訪に、心臓が速くなる。

…いやまあ、驚いたってのもあるが、片思い中の人物が突然現れたら誰だって心拍数は上がるだろ。


「く、クルル…っ」

「ん?」


可愛い、なんて思うのは、フィルターかかってるからかもしれないな。

目を合わせていられなくて、赤くなった顔を逸らした。

クルルはまた楽しそうに笑う。


「今日、先輩料理当番なんだってェ?」

「……だからなんだ」

「くくっ!作れそうなのありましたァ?」

「ぐっ」

「ククク!でしょうねぇ」


くつくつとせせら笑いをして来るクルル。

分かってるなら聞くなと睨み付けてやるが効果なし。


「いいから返せっ!」

「ヤダ、セクハラっ」

「なっなにがセクハラだ馬鹿者!!」


バッと本を奪い返して、黄色を睨む。

相変わらず嫌な笑い方をしながら、今度は俺の肩に寄りかかるようにして本を覗き込んできた。

それだけで、体中が熱くなる。


「…今度はなんだ」


ドクドクと心臓が煩い。

コイツに気持ちを伝えて数日が経った今も一向に返事を貰えていないお預け状態で、気が気でない俺をコイツはからかうようにいつもこうやって絡んでくる。

本当に性悪だと思うが、惚れた弱味か何も言えない。


ふと、クルルが呟いた。


「先輩、この本で何か食いたいもんあります?」

「…は?食いたいもの…?」

「そう」

「……って…言われてもな…」


地球の料理なんか殆ど口にしないし、ましてや料理名なんか知らないし、クルルみたいに好きな料理があるわけじゃない。


「…特に…無いな」

「作り甲斐の無い奴だねェ…」

「は?」

「ちょっと冷蔵庫見て来る」


そう言って勝手に日向家の冷蔵庫を漁り始めるクルル。

…何してるんだ?


「…クルル?」

「んー?……余り物でなんとかなりそうだな」

「何してるんだ?」

「何があるのかの確認」

「…?」


あんまり勝手をすると、夏美に怒られるんじゃないか?
もしかして余ったカレーでも探していたのだろうか。

よく分からないままにクルルは俺の隣に来て、俺の手にある本を見る。

しばらく眺めた後、また別のページを見て、また立ち上がった。


「…クルル…?」

「先輩、ほら何してんスか。作りますよ」

「は?え?つ、作る?」

「夕飯に決まってんだろォが。はい、エプロン」

「……え?」


クルルはさも当然のごとく、エプロンを着用していた。

急なことに頭がついていかない。

夕飯を作る。

誰が?

…俺と、クルルが…?


「くっクルル…お前料理出来たのか…」

「先輩よりは出来るつもりでいますけどねェ?くくっ」

「あ…そ、そうなのか…そういやカレー作ってたもんな…」

「ククク。家事全般は、バッチリッスよ」

「す……すごいな」


素直に感心する。

クルルが出来るって言ったら多分、ムカつくくらい完璧なんだろう。

コイツと結婚した女は泣くんじゃないか。

……いや…泣かせたくて完璧なのかもしれない。

コイツが誰かと結婚するなんて、あんまり考えたくはないが…。


「…お前、結婚する気あるのか?」

「っ!…は、な、何…?」

「いや…家事が出来るなら結婚しなくても良いんじゃないかと…思ってな」


しなくても良い、ってよりは、しないでほしいと思うのは、言わないようにしよう。

あまり過ぎたことを言うもんじゃないからな。


「結婚…ねェ」

「あ、ああ。家事をこなすのは、結婚したくないからか?」


結婚したくない、と言えばケロロなんかが良い例だ。

アイツはガンプラしたさに結婚しない気で居るからな。

だからアイツはなんでもこなす。本当に凄い根性だと思う。


「…先輩は…」

「ん?」

「家事は出来ない方が、好き?」

「?…いや、出来た方が良いだろ。そもそも家事が出来なきゃ女は嫁げ無い…」

「…じゃなくて。俺の話」

「お前?」

「……うん…」


…なにしおらしくなってるんだ、コイツは。

…ちょっと可愛い、な。うん。


「料理出来んの、変?」

「いや…別に良いと思うが…」


むしろ俺に作ってくれたら…とか、思うし。言わないが。


「……か、家事が好きなのか?」


まさかクルルに限っておもちゃで遊びたいなんて理由じゃあるまいし。


「…落とすには胃袋を掴めって、よく言うだろ」

「は?」


…胃袋を、掴む?

…それって、ん?

クルルに、誰か好きな奴が居るって事か…?

……なんだ、じゃあもうクルルは…。


「…クルル…」

「ま…なに作っても同じみたいな反応する先輩にゃ、あんま通用しませんけどねェ」

「……ん?なんでそこで俺が出るんだ」

「うっわ…俺が家事する理由、まだ分かんねえの?」


…理由?

それは、だって…え?


「……ク、ルル…?」

「…アンタの為に、決まってんでしょ、馬鹿」

「…!」

「…鈍感赤ダルマ」


真っ赤な顔を悪態つきながら誤魔化すクルル。


…ああ、可愛い奴だな。





都合良く解釈してもいいんだな?







「先輩顔気持ち悪い」

「エプロン似合うな」

「…バッカじゃねーの」



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