□それは卑怯だろ!
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変な夢を見た。

ギロロ先輩の下で卑猥な音をさせながら、無様に喘ぐ俺に先輩が愛を囁く夢。

とうとうそんな夢まで見るほどになっちまったのかと、情け無くて泣きたくなる。


そんな夢を見たせいか、随分体が重たく感じた。

なんか腰が痛い。変な寝方をしたのかもしれない。


眠たいと訴える目を無理やり開けると、真っ先に写り込んだのは、赤い色。


「……?」


なんだ、これ。

ぼやけた視界を、クリアにする。

…顔だ。しかもなんか、すっげえ見慣れた、傷のある顔。


「……ッッ!!!!!?」


声にならない叫びを、生まれて初めて出した奇跡の瞬間だった。


「(なっ、なっ、なぁっ!?)」


頭はもう大混乱だった。

眠気なんか一気に吹っ飛んで、目を見開く。

目の前の赤色、もといギロロ先輩は、ゆっくりと目を開けた。


「っ」

「…クルル」


名前を呼びながら、見たこと無い優しい笑顔を向ける先輩。

ボンッと音がしたんじゃないかってくらい、顔が真っ赤になったのが分かった。

先輩はまた僅かに笑って、あろうことか俺の額に口付ける。

…ダメだもう、頭の中フリーズしやがった。

意味分かんねえ。

だって昨日まで、先輩いつも通りに俺のこと嫌ってたよな?

滅茶苦茶睨んできてたよな、間違い無く。

…なんだ?何なんだこの変わりようは。

つーかなんで隣で寝てんの?
しかも身動き出来ないと思ったら、抱き締められてるし。
てか此処、俺の寝床じゃないよな?
明らかに先輩のテントじゃん。

…なんで?どうなってやがる?


「…あ、の」

「ん?」


…仕方ない。なんかものすごく嫌な予感がするけども、訊くしかない。


「…なんで…先輩…隣に居るの…?」

「……は?」


いや、「は?」は俺の台詞だから。


「俺…あの、全然分かんねえんスけど、なんでこんな状況になってんですか?」

「……お前、覚えて無いのか?」

「…何を?」


…ヤバイ。なんか本当に嫌な予感がする。

滅茶苦茶心臓が煩いんだけど。


「…覚えて…無いのか」

「……先輩?」


妙にガッカリした先輩。

何故だかちょっと期待する俺。


「いや。良い。覚えて無いだろうなとは薄々覚悟していた」

「…あの、なんの話ッスか、マジで」

「……知らない方が良いんじゃないか?」

「いや良くないだろ。こんな状況じゃ、間違いを犯したとしか考えつかないんですが」

「……その考えは合ってるぞ」

「…ハア!?」


く、え、ちょ、えっ…マジで!?

じゃあ何、今日見た夢って、夢じゃねェの?

まさか……本当に…!?


「せ、んぱ…い」

「…なんだ?」

「……全然、記憶に無いんスけど……本当に……シたの……?」

「…シた」

「………」


絶句。

何がどうなってこうなった。

先輩は俺を毛嫌いしてた筈。

いやでも待て、コレ両思いでも何でもなくてただの性処理とか遊びでとかって可能性があるよな。

そもそもどうやってそんな展開にしたんだ。俺が誘った?いや、そんなわけあるか。

確かに昨日は寝れなくて酒を飲んだ。
飲んだけど、酔いつぶれたり記憶ぶっ飛ぶくらい飲んでない。引き際くらい知ってる。
それに飲んだ後は布団に入った記憶もあるわけで。
自分のラボから出た記憶もない。

じゃあ先輩が寝てる間に運んだのか?
何のために?
性処理として?
いやでもクソが付くくらい真面目な先輩が、それをするとは考えにくい。
ていうかこの筋肉馬鹿に性欲なんてあるのかって所から始まる。

…じゃあやっぱり俺?夢遊病みたいな現象でも起きたのか?


「…クルル」

「…何スか」

「……嫌…か?」

「は?」

「…俺と寝たのが、相当ショックなのだろう…?」


…いや、いやいやいやいや。

待て、先輩。

…待って。


「せ、先輩」

「ん?」

「……あの、なんで俺と寝たんスか…?まさか俺が無理やり先輩に…」

「すまん、俺が無理やり」

「お前カヨ!?」


一番有り得ないと思ってたのに、何なんだこの人。


「…いや、あの…すまん…」

「…順を追って、説明してくれますかねェ…?」

「う。……き、昨日の夜に、お前のラボに行ったんだ」

「何しに」

「昼間、お前のラボに忘れ物をしたのを思い出して…」

「…ああ、やっぱりアンタのだったんスか。あの銃」


思い出す、壁際に置かれていた銃。

まあ先輩のだろうなあとは思ってたから、あれをエサに呼びつけたりしようかとか色々考えてたのは、覚えてる。


「…で、まあ、取りに行ったんだが……あのな…」

「何」

「……寝言で、お前…俺の名前を呼んだんだ」

「………」


うわ最悪。


「…で、まあ、バレたのかと思って、お前の所に行ったら、その」

「…なに」

「……あ、あんまり…可愛い顔で、寝てるもんだから…お、思わず、キスしたんだ」

「…っ!?」


なんてことしてくれちゃったの先輩。

て言うか可愛いって何。

…ああもう顔熱いって。


「………で…本当は、そのまま戻るつもりだったんだが…好きって言いながら、俺のベルト掴んで、離さなくてな」

「…く」

「なんとか離そうとしたんだが……お前が甘えてくるから」


記憶ねえよそんなの。

なに甘えたとか。嘘だろ。


「…抑えられなくて…お前の寝床じゃ狭いから、連れ出して…事に及んだ」

「ぅく…うぅぅ〜っ」

「……すまん」


……なんなんだよもう。

両手で顔を隠すしか出来なくて、もう恥ずかしすぎて唸るしか出来ない。

…て言うか、一つ気になる事がある。


「……先輩…」

「な、なんだ?」

「…先輩って…俺の事…好きなの…?」

「っ!」

「……ねえ…先輩」


流石にここまで来て、性処理として…なんて、言わないよな?

…期待して、良いんスよ、ね?


「…先輩」

「…い、言わなくたって、分かるだろう」

「……性処理スか?」

「違っ…違う!」

「…じゃ、何」

「…っ……クルル」

「はい」

「…あ、愛してる」

「く…ククク…それはどーもォ」


…なーんだなんだ。

そうなのか。

……良かった。


「…クルル」

「はい?」

「…お前は…俺の事…」


好きか?なんて訊きやがる先輩。

…言わせる気かよ。


「…寝言で聞いたんだったらそーなんじゃないの」

「…クルル」

「な、なに」

「今お前の口から聴きたい」

「な、ちょっと」

「…クルル」

「…っ」


耳元で囁くな、やめろ、ああもうっ!









それは卑怯だろ!







「下にいるときは喘ぎながら言ってくれたぞ」

「……オッサンの変態っ」



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