□ごめんなさい
1ページ/1ページ




「ギロロせんぱぁい」

「なんだ」


庭で芋を焼いていたら、見慣れたムカつく後輩が話しかけてきた。

猫なで声がちょっと可愛いな、なんて思いながらクルルを見上げる。


最近気付いたのだが、俺はどうやらクルルが好きらしい。

らしい、と言うのは、認めたくないが夏美と似た感情を抱いているから。


…なんでそう思うのかは分からないが、取り敢えずこんな気持ちは、悟られたらまずい。


「ギロロ先輩」

「あ、ああ、なんだ?」


慌ててクルルに目を向ける。

ちょっとふてくされたようなクルルの顔。

…うう、可愛い。


「俺って、曹長じゃないスか」

「…だからなんだ」

「ギロロ先輩は、伍長だ」

「……なんなんだ一体」


悪かったな伍長で。

ていうか自慢話をしにきたのかコイツは。


「…曹長は伍長より偉いわけだから、命令したら先輩は俺に従わなきゃならない」

「…そ、そうだが…」


嫌な予感がする。

…そういや、今までコイツが階級を意識して俺に指図してきたこと無かったな。

後輩だが上司には変わりない。

…忘れていた。


「でさぁ先輩?」

「な、なんだ」

「上官命令だぜェ…」

「っ」


なんだ、何を命令する気だ。


「…く、クルル…」

「……ギロロ伍長、まずは焚き火やめてテントに入りな」

「……」

「返事は」

「はっ、あっ了解っ」


…くそ、従わなきゃならないといけない軍事魂が今だけ恨めしい。

焼いていた芋を取り出して言われた通りに火を消して。


…ああ、芋は程良く焼けたようだな。


「食うか?」


本当は夏美にやりたかったんだが、渡せそうにないからな。

…クルルにも、食べて欲しいし。


「しかたねえから貰ってやるぜぇ」

「熱いから気を付けるんだぞ」


芋を手にテントへと入り、クルルと向かい合って芋を食べる。

食べながら、何しにきたのだと予想を巡らせた。

今までコイツが命令をしてきたことが無いから、皆目見当もつかない。

嫌がらせ、に来たのは明白であろうが、何をさせる気なのだろうか。

じっとクルルを見つめる。


「(……ちまちま食べる奴だな)」


食べるペースが自分と全然違う。

既に半分を食べ終えた俺に比べて、クルルはまだ三分の一、くらいだろうか。

食べ方は軍人らしくはないが、食べる様は可愛い。

口元から視線をずらしてクルルの目、もとい眼鏡を見た。

特殊構成の眼鏡。

以前ドロロの口が気になってケロロたちと騒いだことがあったが、クルルの目も謎だ。

どんな目だろう。何色だろうか。

まあ見たいと言ったところで見せる奴じゃないからな。

無理やり外すしかないが、それだと後々非道い目に遭わされそうだからやめておくのが賢明な判断だろう。


「……なにじろじろ見てんだよ」

「あっ、いや」


危ない危ない。
…見つめすぎたか。


「すまん…何しにきたのだろうかと…」

「ククク……」


クルルは食べかけの芋を置いて、じりじりと俺に近寄って来た。

当然合わせるように後退りするが、狭いテントの中じゃ逃げ場など無い。

直ぐに行き止まり、クルルを見る他無かった。


「な、なんだ」

「せんぱぁい、上官命令だぜェ…?」

「…なにを」


クルルはぎりぎりまで近寄って、嫌な笑いをすると突然俺の手をクルルの頬にあてがった。

それに俺の心臓が速くなる。


「(や、やばいやばいやばいやばい!)」


テンパる俺に構わず、クルルは手に頬を擦り寄せた。

意味が分からずクルルを見れば、僅かに頬を赤らめている。

俺の手を支える手が、小さく震えていた。


「ギロロ、先輩…」

「は…」

「……動くなよ」

「え、………っ!?」


唇が、塞がれた。
目の前にはクルル。

言わばこれは、キスというやつで。


「〜〜っ!?」


引き離そうにも、ちっとも離れないクルル。

クルルの腕は俺の首に回されているし、俺の後ろは行き止まり。


「ん…っふ」


甘い声が、クルルの口から漏れた。

それに、なけなしの理性が悲鳴を上げる。

このまま押し倒してやりたいのを必死に堪えながら、クルルのキスを受けた。

しばらくしたあと満足したのか、ゆっくり唇を離したクルル。

そのまま俯いて、黙ってしまった。


…全く意味が分からない。
何がしたいんだコイツは。


「……クルル…どういうつもりだ」

「……」

「…クルル」

「………」

「…答えんかっ!」


無理やり顔を上げさせてクルルを睨む。

が、クルルの顔は真っ赤なままであろうことか涙を流していた。


「…え、あ…す、すまん…」


思わず謝ってしまうが、慌てて俺は悪くないと思い直してクルルを見た。

だが見たことのないクルルの顔に戸惑い、どうしたらいいか分からなくなる。


「…クルル」

「………」

「…クルル、泣いていては分からんだろうが」

「……っ!」


涙を拭ってやれば、驚くほどにビクッと肩を跳ねさせたクルル。

それからゆっくり、クルルは俺の手を掴んだ。

ドキッと胸が鳴る。


「…ギロロ先輩」

「な、なんだ」

「…せんぱい…」

「っ!」


ちゅ、と頬に柔らかい感触。

キスされたんだと気付いた時には、既にクルルは離れていた。


「…ク、ルル…?」


訳が分からんとクルルを見ていたら、クルルは俯きながら震える声で言った。




ごめんなさい、好きなんです







震えるクルルが愛しくて。
俺は、腕を伸ばして抱き締め想いを告げた。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ