□それは冗談?それとも本気?
1ページ/1ページ




日向家家事当番という制度によって働く、侵略者あるまじき行為。

そんな隊長であり幼なじみであるケロロを見て、溜め息をついた。


掃除、洗濯、炊事。

侵略される地球人の支配下に置かれて働くケロロを見て、情けないと思うのと同じくらい、凄いなと感心した。


洗濯物を干すケロロを、黙って見つめる。

まるで主婦だ。

自分には到底真似できない。

家事をして、侵略者としての仕事をする。

しかも隊長だから、他の隊員よりも仕事があるし宿題まである訳だ。

まあそれら全てを完璧にこなせてはいないが、それでもよく考えたらコイツはやっぱり凄いなと思う。


ケロロが潰れてしまわないよう、幼なじみとしても隊員としても支えてやりたい。


…まあ、だからといって俺は甘やかしたりはしないがな。


「…ちょっとギロロ、そんなに睨まないで欲しいであります」

「え…あっ、ああすまん」


いつの間にか随分と険しい顔で見ていたらしい。

洗濯物を干し終えたらしいケロロは、台の上からヒョイと飛び降りて目の前まで来ると隣にしゃがみ込む。


同い年の男の妙に似合うエプロン姿には、今はすっかり慣れてしまった。

慣れとは恐ろしい。

軍資級のエプロンがなんでこんな女々しいのか、貰った当初は正直頭が痛かった。

今は、たまにしか身に着けないが想い人が着けるのを見て、エプロンの柄に感謝してるくらいだが。


「うわ、なにギロロ。気持ち悪い」

「んなっ!?」


顔やべえよ顔、とニヤニヤしながら言うケロロに、うるさいと言い返す。

ケロロは何がおかしいのか、ひとしきり笑った後に立ち上がって伸びをした。


「それよりさーあ、ギロロ」

「なんだっ」

「お昼、何食べたいでありますか?」


…そんな事か。


「…なんでもいい」

「なんでもいいって…そーいう意見が一番困るのよね!!」

「す、すまん」

「んもー毎日毎日おんなじ事しか言わないんだから!そんなんだからギロロ、侵略出来ないんでありますよ!」

「ハア!?そっそれとこれとは関係ないだろうがっ!」

「関係ありますぅー!」

「関係ない!」


ぎゃんぎゃん騒がしくなる庭。

ふと、日向家から覗いた黄色が目に入った。

それによって、俺の気が一気に反れる。


「なんだなんだァ?騒がしいなァオイ」

「く…クルル…」


普段から籠もりっぱなしのクルル。

久し振りに見た気がして、嬉しくなった。

相変わらず可愛いな、なんて場違い過ぎる感想が頭を過ぎるのとほぼ同時に、緑色が黄色に泣きついた。


「クルルぅ〜!!聞いてよ聞いてよ!赤ダルマがイジメるんだぁ!」

「きっ貴様!クルルから離れんかっ!」


なんて羨まし…じゃなくて!


「ククク、痴話喧嘩かい?仲が良いこったなァ」

「なっ!?なにが痴話喧嘩だっ」

「おや、違ったか?夫婦喧嘩?」

「違っ」

「そーだクルル!クルルもお昼一緒に食べるでありますっ!」


話の流れを一切気にしないケロロの発言に、クルルはまた楽しそうに笑う。

……クルルのからかいを真に受けてるのは俺だけか。

流石ケロロ、クルルと仲が良いだけあって扱いには慣れている。

…悔しいがな。


「昼飯ねぇ…何か見返りありますぅ?」

「見返りって…あーじゃあ…1日ギロロ貸し出しで」

「ハア!?」

「オーケィ、交渉成立だ」

「なっちょっと待て!?」


なんでそうなるんだ!?

そもそもなんで俺なんだ!


ふざけるなと怒鳴りつけようとクルルを見たら、いやに可愛い仕草でこっちを向く。

言葉に詰まったままの俺を、知ってか知らずかクルルは更に追い討ちをかけた。


「ギロロ先輩、…イヤ?」

「うっ!?」


イヤ?って…なんだそれ可愛いじゃないか…!


「…ふ…ふんっ!勝手にしろ!」

「んじゃあ勝手にするぜぇ」

「あーあ…」


楽しそうに笑うクルルと、呆れたようなケロロ。

ケロロは「あちいあちい」と言いながら、そそくさと台所に向かった。

それを見送ったクルルが、俺に手招きをする。

そんな仕草も可愛くて、危うく緩む頬を無理やり引き締めて近付いた。


「なんだ」

「ギロロ先輩、夕食は俺がご馳走しますよォ。先輩の為に」

「…へ」

「なに食べたい?カレー?ボルシチ?」

「え…え?クルル…?」


意味が分からない。

なんだって突然、クルルが俺と飯を食いたがるのだろうか。

いやまあそりゃあ嬉しいがな。
好きな奴と飯食えて、あまつさえそれが手作りなら尚更。

だけども、悲しいが俺たちは飯を食べ合うほど仲が良いわけじゃない。

俺はクルルが好きだが、クルルは俺をなんとも思ってはいないのだ。

更に言えばクルルは誰かと交流するほど社交的でもない。

つまり俺への食事の誘いは、普通に考えて有り得ない事。

…となれば、嫌がらせを受けるに違いない。


「…な…何をする気だ」

「ク?…なんもしませんてば。何、なにかしてほしいんスか?」

「は、なっ、そんなわけあるかっ!何を企んでいるんだと聞いて…っ」

「俺だってなあ…」


ボソッと呟くクルル。

よく聞き取れなくて近寄ると、クルルは勢い良く抱き付いてきた。

当然、驚いた俺の心拍数はヤバいことになっている。
顔を見られたらからかわれるレベルだ。


「くっ、クルル!?」


クルルの匂い。体温。感触。

…頭が沸騰しそうだ。


「クル…」

「俺だって…先輩につくりたいもん」

「は…ハア?」

「隊長ばっか…先輩にご飯作ってんのずるい」

「ずるいって…」


なんだそれは。

いやそれよりまず離れてくれないとヤバいんだが。


「く…クルル…」

「先輩、隊長を好きになっちゃダメだよ…」

「は…?」

「…先輩のバアカ」

「は…ハア!?」


なんで馬鹿なんて言われなきゃならんのだ。

全く意味が分からない。


「ちょっとそこのバカップル!皿出すの手伝って!」

「なっばっだっ誰がバカップルだっ!」

「いーからっ!」

「ククク…先輩、俺たちバカップルだって」

「お、お前とそんな関係になった覚えはないっ」

「あら、じゃあそんな関係になっちゃいますぅ?」

「は…は!?」


ボンッと赤くなる俺の顔を、クルルは楽しそうに笑ってから頬に口付けたものだから、余計に顔が赤くなって心拍数が速くなる。


「なに、なんっ、クルル…!?」

「クーックックック〜!!…恥ずかしっ」

「ちょっとバカップル聞いてんの!?皿出せっての!」

「はいはーい。ククク!」











「く…クルル、す、好きだっ」

「ククク、知ってましたよ?」

「…あーもう良いから、早く食べろよバカップル」



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ