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□今日は恋人の為の日でしょう?
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「先輩…何これ」
「なっ、なにって、は、花だっ」
突然ラボに来て差し出されたのは赤いバラ。
…何なんだいったい。
「……花なのは見りゃ分かるんだけど。俺様が聞きたいのはなんで急にバラの花束なんか寄越すんだって話」
「そっその、なんだっ、たまたま偶然見付けてなっ!俺は花なんてものは必要ないがお前は要るんじゃないかと!」
「たまたま偶然、ねぇ…」
それってどんな偶然だよと突っ込んではみたものの、先輩の差し出す綺麗な花束に口元が緩みそうだった。
花束なんて正直必要ないし、そもそもそんな綺麗なものは嫌いなんだけれど。
…先輩からの、プレゼントは別。
嬉しくて緩む頬を無理やり引き締めながら受け取って、花束を見る。
赤いバラは先輩の色みたいだ。
「…先輩、今日バレンタインなんだよなァ」
「!」
「ね、これ俺様にってわざわざ買ったの?ん?」
買ったんだよな。
だって花束の中に、バレンタインのカード入ってるし。
「なっばっ、違っ!バレンタインなんか関係無いわ!」
「そなの?んーじゃあ、これ実験用に回しちゃお。ちょうど品種改良の材料が欲しかったんだよなァ」
「えっ」
「ん?何スかァ先輩?」
「…あ……い、いや……」
困惑したような先輩に、こっそり笑ってやる。
馬鹿な奴。実験用なんかにするわけないじゃん。
「…あの…な…」
「なに?」
「…っ、く、クルルっ」
「はい?」
ニヤニヤと笑いながら、先輩を見る。
真っ赤な顔で怒りを表す先輩は、ふと何かを思いついたかのように手を伸ばして、花束から一輪バラを抜いた。
何をするんだと思って一挙一動見守っていたら、俺の頭に花を持って行く先輩。
「…あ?」
「…なんだ、似合うな。可愛い」
「……っ!?」
……おいおい、何そんな恥ずかしい事してくれてんの。
「……ふ、顔が赤いな」
「うるせ」
「…クルル」
「ばか、触んな」
「クルル」
「…んっ」
…ああもう、結局先輩のペースに持って行かれちまう。
「ん…ぅ…ふ」
絡められた舌に、ぞくりとする。
いやに長い口付けに息苦しくなって、先輩の肩を叩いた。
「…はっ……もう、ふざけんな」
「…なァ、クルル」
「なに」
「愛してる」
「……………」
何でこう、唐突なんだ毎回毎回。
早死にさせる気かよ。
ああくそ、顔熱い。
「…先輩のバカ」
「なっ」
「……今日、バレンタインだもんな」
恋人が愛を確かめ合う、なんともむず痒いイベント。
まあ、好きだけどな。こういうイベント。
「…先輩…ほら」
「…ん?」
「バレンタインだから、チョコレート」
「…!クルルっ」
「有り難く食せよォ?」
前々から用意していたチョコレート。
本当は悪戯してから渡すつもりだったけど……なんか花束貰ったら、そんな気も失せちまった。
花屋でこれを買う先輩を想像したら、物凄くおかしくて、嬉しくて。
…だから今日くらいは…な。
「…ギロロ先輩」
「なんだ?」
「もっかい、してほしいにょ」
「…へ」
「ギュッとして、ちゅうして、…愛して?」
「…!!!!!!」
「ね…せんぱい」
今日は恋人の為の日でしょう?
だから、今日くらい素直に甘えてもいいよね