□もう離さない、ずっと
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雪の降る寒空の下。

向こうから、傘もささずに歩いてくる人影一人。

その人物を見て、どくりと心臓が鳴った。


「……クルル…!?」

「あ?」


歩いていたのは、一人の少年。

制服を着崩したその少年を見て、確信する。


魂がどうとか言って、信じてくれる人はどれくらい居るだろうか。


…やっと見つけたんだ。

愛しくてたまらない、生意気な後輩を。


「……あんたなに?ストーカー?変質者?」

「ちっ違うわ!!…お前、とにかく傘はどうした、濡れてるじゃないかっ」

「っつーか…なんであんた、俺の名前…」

「…良いから。ほらこれでも着てろ、風邪を引くだろうが」


着ていたジャケットをクルルに無理やり着せて、傘をさす。

訝しんだ目が、俺を睨んできた。


「……俺、残念ながら男ッスけど」

「…なにを気にしてるんだ…」

「じゃあなんなのあんた」

「あんたじゃない……ギロロだ」

「…ギロロ?」

「ああ」

「………オッサン。あんた見知らぬいたいけな少年捕まえて何する気だよ」

「…なんだ、何かしてほしいのか?」

「ククッ…オッサン、やっぱり変質者か」


減らず口と人をムカつかせる言動は相変わらず…か。


「……ギロロ、先輩?」

「!…え、な」

「…あんた、あんま初めて会った気しねェな」

「……そ、そうか!?」

「ククク…変質者の知り合いは居ねえはずなんスけどねェ…」

「だっ…だから変質者じゃない!」

「ククッどーだか」


笑うクルルに、胸が熱くなる。

懐かしくて、愛しくて。

今までずっと、ずっと会いたくて生きてきて、やっと会えたクルル。

泣きたいくらい、嬉しくなる。


「……クルル、手を貸せ」

「ぇ、あ…」


手を握れば、一瞬で朱に染まる後輩の顔。

冷たい手も同じくらい赤くなっていた。

狼狽えて視線をさまよわせる後輩。
そんな後輩に愛欲が生まれて顔を近付ければ、更に赤く染まる顔。


人通りも少ない道。
誰に見られる心配が全く無いわけではないが、気にすることなく距離を縮めた。

もし見られたら、男同士だと非難の目を向けられるだろうが、そんなものは気にならない。


「せ、せん、ぱい、な…なに?」

「……クルル…」

「…っ!?…だ、だめっ、ちょっと、なに考え…っ」

「……好きだ、クルル」

「んん…っ!?」


久し振りのキス。

当然軽いキスじゃ物足りなくて、握る手を頭に回して深く口付けた。

ピクリと震えるクルルが、小さな手で服を握る。

しばらくしてから唇を離せば、涙目で睨むクルルと目が合った。


「…へんたい…っ」

「……クルル…可愛い」

「ばか、もう、あんた頭おかしーんじゃねェの!?」

「…嫌だったか…?」

「あっ…当たり前だろ!?このへんたいっ」


真っ赤な顔、涙に濡れる瞳。

吸い込まれるようにしてまた、唇を重ねた。

甘い声が、吐息が、更に火をつける。


暴れる気配はない。力が抜けたのだろうか、突き放そうとする手も弱々しい。


「…イヤという割には、あまり抵抗はしないんだな」


唇を離して耳に囁いてやれば、クルルはビクッと肩を震わせた。

それからか細い声でぼそぼそと何かを呟く。


「……っ…なんか…へんだ…」

「…変?」

「…わ、っかんないけど……泣きたいくらい、嬉しい…っ」

「……クルル…?」

「あんた、なんなの?俺、なんで…こんな…っ」


嗚咽が聞こえる。泣いているのだろうか。

小さな体を抱き締めて、つられるように涙を流す。


やっと会えた、なんて愛しい声が、聞こえた気がした。













「…男にキスされて嬉し泣きなんて、俺も変質者の仲間入りか…」

「だから変質者じゃない!」




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