□可愛さにノックアウト
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ラボを見渡しても、地下基地をくまなく探しても、日向家を見ても、居ない。


「え?クルル?クルルなら、タママのとこに行ったでありますよ」


緑饅頭に訊ねれば、そんな答えが返ってきたもんだから、僅かに浮上した嫉妬心を胸に西澤邸に向かう。


なんでタママのところに?

そういえばタママにはあまり邪険にしないし、優しいよな。

歳だって近いし…。


浮気なんかしないと思うが、それでも落ち着かない。

心配性だと笑われるだろうか。

でも、クルルの事となると不安で仕方無いんだ。


見えてきた西澤邸に突っ込むような形で入り込む。

当然親衛隊だなんだと出て来たもんだから、武力で黙らせようと武器を構えた。


「タマッ!?ギロロ先輩!」


聞こえた声に顔を上げる。

驚いた様子のタママのすぐ後ろには、探していたクルルの姿。


「クルル!」

「く?」


武器を捨て、クルルの所に駆け寄った。

ガシッと掴んだ肩を引いて、強く抱き締める。


「…クルル…ッ」

「くく…何スか?随分ど派手なお迎えじゃねェの」

「……こんな所で、何をしてたんだ」


クルルの顔を見れば、キョトンとした顔で俺を見る。

それからニヤリと笑った。


「…ククッ、嫉妬ですかぁ?」

「うっ」

「クーックックッ!それでこんな事してんスか、先輩?」

「うぅっ」

「伍長さんひどいですぅ!ボクには軍曹さんが居るのにぃっ!」


おろろーんっと泣き出すタママと、可笑しそうに笑うクルル。

そんな二人に混乱しながらクルルを一度離して、事情を説明するように目配せした。


「ボルシチ食ったことねェっつーから、食わしてやってたんだぜェ。で、今帰るとこ」

「モモッチの家のコックさん、クルル先輩に教えてもらってたですぅ!」

「ククッ!それなりの報酬もちゃあんと頂いたしなァ…クーックックッ!」

「…それじゃ…」

「浮気でもなく逢い引きでもない、あんたの勘違いだぜェ」


恥ずかしい奴!と笑い出すクルルに、かあっと顔が熱くなったあとに、一気に青ざめる。

恥ずかしさで居たたまれなくなってきたときに、クルルが俺の腕を控え目に引いた。

今度はなんだ?と半ば疑問に思いながら見れば、クルルは少しだけ頬を染めて俺にだけ聞こえるよう小さく呟く。


「…先輩、心配してくれてありがと………嬉しい、です…」

「…!」

「……先輩も、ボルシチ…いる?」


取られた腕を掴むクルルの手が、少しだけ強くなった。

そんなクルルが可愛くて、一瞬で顔が熱くなる。


「たっ食べるぞ!」

「ククッ、んじゃ…帰ったら美味しいの食わせてやるよ」


今度は先輩用の愛情たっぷりのボルシチだから、と恥ずかしそうに呟くクルルに、更に顔が熱くなった。













「伍長さん、真っ赤になったまま気絶してるですぅ」

「あっれぇ?せんぱぁい、どーしたのぉ?ククッ!」

「(絶対分かってやってるなこの人…)」





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