1
□一日だって離れたくない
1ページ/1ページ
何となく気になった。
先輩が、いや、俺が何日間先輩に会わずに居られるのか。
モニター監視も無し、会議も…いや、会議は出ないとうるさいから、それは出てやろう。
ただし顔は合わせない。
無論、会議に必要性の無い会話もナシだ。
と、まあそんな思惑で始まった引きこもり生活初日。
ラボの入口には立ち入り禁止の貼り紙。
もともと引きこもりな俺だ。
3日くらいは引きこもりをしても、怪しまれることなく普段通りだと思われるだろう。
ちょうど発明品の修理もあるし、これを機に少しバージョンアップでもしてやろうか。
そんなこんなで機械いじりに没頭する事にしていたら、アッと言う間に一日が終わった。
…やっぱり先輩、来なかったな。
二日目。
昨日とは別の機械を手に取って改良に没頭する。
引っ張り出して来た発明品の多くは、どれも改良したら面白くなりそうな物ばかり。
設計図を見直して、新たに書き込んでは造り上げていく。
ふと確認した時計は、既に20時を過ぎていた。
順調に過ぎていく時間に思わず笑みが漏れる。
そんな時だった。
「クルル!!」
「!」
ラボの外から聞こえた、愛しい声。
貼り紙が見えねえのか、とか、何しに来たんだ、とか思いながらも、聞こえた声に嬉しくなる感情は間違いない。
モニターを、ボンクラ隊長の部屋や日向家に繋ぐ。
貼り紙を無視してまで先輩が呼ぶと言うことは、何か事件性があるのかもしれない。
しかしどこを見渡しても、いつものように隊長はガンプラに勤しんで居るし、傍らには楽しそうにするアンゴル娘とそれに嫉妬するガキが居て、日向姉弟も相変わらず。
何も変わった様子はない。
原因不明のまましばらく聞き耳を立てていたら、そのうち物騒な言葉が聞こえた。
「応答せんのなら扉を破壊する!」
オイオイオイ待てやオッサン。
何でだよ。そんなに大事なのか。
なんて思っていたら、ドカンと派手にラボの入口が破壊された。
本当に壊しやがった、なんて思わず顔が引きつるも、先輩に振り返る事無く機械に手を伸ばす。
中に入ってきた先輩が、俺の背後に立つ気配がした。
「……クルル」
…なんだよその声。
思わず振り返りたくなっちまうじゃねえの。
「…クルル…」
いいから用件を言えよ。
なに、もしかして甘えてえの?
あ、くそ、口元緩んできやがった。
「…クルルっ」
「くっ!?」
突然、勢い良く後ろから抱き締められる体。
いじっていた機械が転がり落ちて、ていうかなんかもう、心臓ばくばくで、ああくそ、なんなんだよもう。
「せ、先輩…っ?」
「…クルル…」
「…く、ククッ、貼り紙あったの見えましたァ?俺、今忙しいんスよ」
「知るか。どうせくだらない発明なんだろうが」
「……くだらないってあんたな」
流石にムカつくんスけど。
新たに改良した発明品で一回嫌な目に遭わせてやろうか。
「…先輩…」
「…俺はお前に一日会えないだけで落ち着かなかった」
「!?」
「お前は、何とも無いのか?」
ああ待て、ばか。
顔が熱い。ちょっと待て、落ち着け心臓。
「…クルル、会いたかった」
「……っ」
なんなのこの人、俺の心臓まで握ってんの?
スゲエ苦しいんだけど。うるさい。
ああ、もう、熱いよばか。
「……引きこもるなとは言わない。だが、一回くらいは顔を見せろ。少しでいいから」
「…ククッ…了解」
「…クルル」
反転する体。
真正面に先輩の顔。
一日見なかっただけなのに、久し振りな気がする。
「……クルル」
「ん…」
重なる口付けも、なんだか久し振りな気がした。
一日だって離れたくない
俺も、本当は先輩に会えなくて寂しかったなんて
絶対内緒だ