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□あたたかくて、溶けちまう
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知ってるんだ、先輩に嫌われてるって。
何かあると俺を疑って、怒鳴られて、冷たい目を向けられる。
それでも最近は、名前を呼ばれたりちょっと頼られたり、一緒に行動出来るくらいには仲良くなれたかな、なんて思ってた。
…思ってた、のに。
轟く銃声。眉間に突きつけられる銃口。
「……ククッ…先輩、なに怒ってんスか?」
「とぼけるな。俺のベルトを返せ」
「…おや…バレちまいましたか」
バンッと鳴り響く銃声に、思わず肩が揺れた。
「……ちょっとした可愛いイタズラじゃないッスか」
「可愛い?俺を除隊に追い込むレベルが可愛いだと?」
「ククッ、いい加減ベルト無しで役に立って下さいよ」
「いいから返せ!!」
ガッと椅子ごと蹴飛ばされて、背中を強打する。
よろよろと立ち上がって、先輩を見た。
相変わらずの形相で睨んでくる。
大事に保管していたベルトを取り出せば、先輩は素早く奪い取った。
「…ったく」
「……」
「一度ならず二度までも…貴様、そんなに俺を追い出したいのか」
「…さァて?」
がんっと殴られた。
あ、口の中切れたかも。
イテエ。
殴られた場所も、切れた場所も、心も。
「貴様はそんなに俺が嫌いか!?」
違いますけど。
あんたバカですか。
大好きなんだよ阿呆。
嫌がらせすんのも、それが俺の愛情表現なんだってば。
…それ以外のこと、出来ないんだよ。
「…嫌がらせイコール嫌いってのは、ちょっと安直じゃねえの?」
殴られた頬が腫れてるらしい。
喋りにくいな。
最悪。涙滲むわ阿呆。
先輩も、なんでそんなに睨むかな。
「……先輩は、俺のこと、きらい?」
あ、また発砲した。
今度は頬が切れちまったじゃねーの。
あーあ、俺様ってば傷だらけ。
それが答えって訳ね。
まあ、知ってたけど。
「……次またこんな事をしたら、その時は命が無いと知れ」
低い声。
好きだけど怖い。
ああでもそうか。
先輩、俺を殺したいくらい嫌いなんだ。
俺が死んでも、いいんだ。
「…ククッ」
「何がおかしい」
「いや?……ちょっと、ガラにもなく傷心しちまいまして」
「……なに?」
「先輩、次やったら殺してくれんだろ?」
「…クルル?」
「ちゃんと殺して下さいよ先輩。俺、先輩になら殺されてもいいから」
「…なっ」
「先輩に殺されるなら、本望だぜェ」
大好きな人に殺してもらえるなんて、一人寂しく死ぬよりよっぽど良い。
知らない敵に殺されるよりも、ずっと。
「先輩、ちゃんとその引き金引いて下さいよ?最期の嫌がらせしますから」
「なに…、クルル…?」
絶対、一番嫌なこと。
愛する女を殺されるよりも、取られるよりも。
もっともっと、相手がトラウマになること。
「……先輩。俺、ギロロ先輩が好き」
「ハア?」
「……好き、なの」
「…!?」
あ、ちくしょう。
涙なんか流れて来やがった。
慌てて拭っても、全然治まらない。
…まあいいか、これも。
「……今まで嫌がらせしてすいません。でもこうでもしなきゃ、俺弱虫だから言えないんスよ」
「な…っ?」
「愛情表現って難しいッスね、ちっとも伝わらねえや」
「ク、ルル…」
「ほら先輩。…大嫌いな後輩からの本音の愛の告白って、最大級の嫌がらせだろ?」
はやく引けよ、引き金。
じゃないと、泣き崩れちまいそうだからさ。
堅く目を閉じても、涙って止まらないんだって、先輩知ってた?
先輩分かる?俺、体も声も、スゲエ震えてんの。
死ぬのが恐ェのかな。
フられるのが恐ェのかな。
よく分かんねえや。
「……先輩?」
いつまでも鳴らない銃声。
ようやっと目を開けて映る先輩は、銃を手にしていなかった。
「…なにしてんの?早く」
「貴様は馬鹿だ」
「……は?」
「あんな嫌がらせで分かるわけ無いだろ、貴様の気持ちなんか」
「……」
「貴様なんか嫌いだ」
「……知ってるッスよ?」
「だがな」
「…?」
「すぐ頭に血が上って仲間を軽々しく殺すと言った俺はもっと嫌いだ」
…仲間?
ああ、なに、一応仲間認識はあったんだ。へえ。
「クルル」
「……」
「残念だが、お前は殺さない。…殺せない」
「仲間だからってか?嫌いな相手に優しいんスねェ随分」
「……、クルル」
「あ?」
「時間がほしい」
「なんの」
「お前の気持ちに対する答えを出す時間だ」
「…だから、嫌いなんだろ?」
「俺はお前をちゃんと見てなかった。だから、これからはちゃんと見る。その上で返事をさせてほしい」
…スゲエ真面目。
だから、好きなんだろなァ。
真っ直ぐな目、嫌いなはずなのに。
「…その前に、冷やすか」
「……」
腫れた頬に先輩が触る。
痛くて、でもなんか、そんな優しく触れるの初めてだからドキドキして。
「……怪我させて、すまんな」
「………」
「…クルル」
殺されもしなくて、フられたわけでもなくて。
優しい目をした先輩に、傷付いた心がいち早く治った気がした。
あたたかくて、溶けちまう
俺にも嬉しくて泣く、なんて出来るんだって初めて知った