□不可思議な後輩
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最近感じるのは、嫌な視線。

いつどこにいても感じる視線に、いい加減頭がどうにかなりそうだった。


そんな視線が、ある時プツンと途切れて。

珍しいなと思っていたが、それはどうやら決まってちょうど夏美と居るときに途切れるようだった。


だから、非常に不本意ではあるが致し方ないので、最近は夏美と居るようにしている。


「ギロロ、クッキー食べない?」

「あ、いや…いや、仕方無いな、食べてやる」

「もう、素直に食べたいって言えばいいのに」

「……ふんっ」


夏美のクッキー。
戦場じゃ、食料は貴重だし食べれるときに食べておかないとまずいわけだ。

決して夏美の手作りだから食べたいとかそういうことは無い。断じて。


「あんたのために甘さ控えめにしてあげたからね」

「お、おおお俺のためだと…!」


な、なんだこの甘ったるいが心地良い空気は。

いかん、しっかりしろギロロ。
俺は軍人だ、こんな甘い空気に惑わされるな。

戦場の厳しさや緊張感を思い出せ!


「ギロロ、食べてみて?」

「いただきます」


ああくそ、いや、これもこれで緊張感はあるしな。


…甘過ぎないクッキーは、確かに美味しい。


「どう?美味しい?」

「…ま、まあ、美味いんじゃないか?」

「素直に美味しいって言えないの?あんた本当に素直じゃないわよね…」

「…ふんっ」


紅茶を飲んで、クッキーを流し込む。

やはり両方、美味い。


「そういえば最近、ギロロはうちに来たがるけど…どうしたの?」

「え」

「今までは馴れ合いがどうとか言ってたじゃない」

「そ、それは、だな」


まさか奴の視線から逃れる為なんだとは…情けなさすぎて口が裂けても言えない。

言い訳を考えていたら、夏美がにっこり笑っていたので、ドキリとした。


「な…夏美」

「なんだかギロロって、犬みたいよね」

「……は?」

「ようやっと悪巧みをやめて、飼い主に従順になった犬」

「おっ俺は貴様のペットじゃないぞ!?」

「あははっ、ごめんってば!でも似たようなものじゃないの」

「…似たような…?」

「ボケガエル同様、手の掛かる動物よ」

「なっ」

「あーあ…あんたたちがただの可愛い動物だったらなあ…そしたらサブロー先輩と…!」

「……っ」


ガラガラと、なにかが崩れたような音がした。

すうっと感情が冷め始める。


夏美は俺たちの敵。
俺たちは侵略者だ。


…分かっていた、はずなのに。


「ちょっと邪魔するぜェ」

「クルル!」

「!」


沈みかけた時に聞こえた奴の声。

何用だと問う前に、奴は夏美を見上げてなにか睨みつけるような視線を送っていた。


「な、なによ」

「いや?ただちょっと、鈍感過ぎてよォ」

「ハア?」

「ネコちゃんじゃねえが、一言言わせてもらうぜェ…」

「なに…」

「ギロロ先輩に謝りな。ペット扱いを取り消して、謝れ」


…なにを、言ってるんだコイツは。

というか聴いてたのか?


「謝れ…って…ま、まあ確かに、言い過ぎたかもしれないわよね…ごめんなさい」

「え、あ、いや…」

「ギロロのことは…頼りにしてるから、その…」

「…夏美」


頼りにされるのは些かおかしいような気もするが、それでもどうやら単純な俺は、嬉しいと感じていたりして。


「…気にするな。それくらい強気な発言が出来なければ、この先生きてはいけんからな」

「あんたたちから地球を守らなきゃならないからね」


再び和やかな雰囲気になり始める、そんな会話。


夏美が「クルルにも紅茶入れてあげるからね」と立ち上がって台所へと向かう。


奴がふと俺を見て、静かに笑った。


"良かったッスね、先輩"


確かにそう、呟きながら。











不可思議な後輩







僅かに泣きそうだったのは、俺の見間違いなんだろうか。





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