□必ずお前も
1ページ/1ページ



先輩が笑ってくれるなら

先輩が幸せになれるなら


俺は、なんだってする。


例え、俺が死ぬ思いをしたとしても。






「適性宇宙人に夏美がさらわれただと!?」


緊迫する指令室に、ギロロ先輩の声が響く。

誘拐犯はヴァイパー。
それも極悪な殺人犯。

宇宙規約で地球人に手を出すのは御法度とされているが、奴相手だと規約なんてあって無いようなもの。


「現在地、割り出したぜェ!」

「どこだ!?」

「…砂漠のど真ん中だ」

「ゲロォ!?砂漠ですとぉ!?」

「行ったらボクたち干からびちゃうですぅ〜っ!」

「どうしたら良いか…」

「強行突破だ、行くしかあるまい!」

「で、でもギロロ!一応軍規で地球人を助けちゃダメって」

「助けるんじゃない!ヴァイパーを倒して夏美を連れてくるだけだ!」

「それでも無茶ですぅ!」

「さよう。この時期この湿度では、拙者たちがやられてしまうでござる!」

「だがこうしてる間にも夏美が死ぬかもしれんのだぞ!?」

「おちけつでありますギロロ伍長!…クルル!何とかならないの!?」

「ムリ」

「…っ俺は行くぞ!」

「だあっだから待てってばぁ!」


ぎゃんぎゃん騒がしくなる指令室。

相変わらず熱い人だなと思いながら、ちょっとだけ夏美が羨ましく思ったり。

…俺が同じようにさらわれたら、心配してくれるかい、先輩。


「…ん?ちょっと待ちなァ!敵からの通信だぜェ」

「なにっ!?」


パッとモニターを出せば、ヴァイパーと夏美の姿が映される。

夏美は意識が無いのかぐったりして、磔にされていた。


「夏美!」

「夏美殿!!」

『ガ〜ラガラガラッ!おはよう、間抜けなケロン人の諸君!』

「夏美を返せ!!」

『んま、そういきり立つなよ…この地球人を解放してほしくば、条件をのんでもらうガラ』

「条件だと?」


想定内。

他のヴァイパー共とはやっぱり違うようだ。


『貴様らケロン人には、我々ヴァイパー一族も随分世話になっているそうじゃないか、ええ?』

「ま、まあ世話っつーか、我輩たちストーカーされてるっつーか」


そもそも俺たち悪くねェよなァ。


『だが。我々が何故貴様らにやられるのかを考えた俺は、一つの答えに辿り着いたガラ』


ヴァイパーはニヤリと笑って、俺を見る。

その目にぞくりと悪寒が走った。


『そこの黄色いケロン人がいるから、我々は負ける』

「え、クルル?」

「クククーッ!まあ天才無きに小隊は動けねえもんなァ」

『…そこで、だ。そこの黄色いケロン人と交換で、地球人を解放しよう。但し、そのケロン人と受け渡しのケロン人二人だけでだ』

「なっ!?」

『話は以上。早くしないと地球人が死んじゃうガラ…ガ〜ラガラガラガラ!』


プツンと切れる通信。

シンとして空気だ。


「…だ、そうだ。隊長」

「…ぅえっ!?あっ…ああ…」

「どうしますぅ、受け渡しの人」


誰でも良いぜェ、と笑ってやれば、隊長が顔をしかめる。


「ダメであります、クルルを交換なんて!」

「そうでござる!きっとこれは罠でござるよ!」

「んじゃどーすんだい?」


不利な戦地、状況。

助けられるチャンスも、悲しいくらい僅かな確率。


「……手段を選んでいるヒマはない、か」

「ぎ、ギロロ伍長!」

「受け渡しには俺が行こう」

「伍長さん!!」

「ちょっとギロロ!?これは罠かもってドロロも…っ」

「時間が無い。…行くぞクルル」

「ちょっと待つであります!」


隊長がこれまでにないくらいの怒声を発した。

先輩は隊長に背を向けたまま微動だにしない。


「…夏美殿だって大事であります。でも、クルルだって仲間なんでありますよ!?無事に夏美殿を救出したって、クルルが死んじゃうかもしんないのに…ギロロはクルルを見捨てる気でありますか!?」

「……」


先輩がゆっくり振り返る。

俺を見てから隊長を見て、口を開いた。


「…戦場に犠牲はつきものだ」

「―――…っ!?」


隊長が、ガキやドロロ先輩が、息を飲むのが分かった。


俺はただ、冷静で。


悲しくなんかない。

傷ついてなんかいない。

哀しくなんか、ない。


「ククッ…んじゃ、いってきまァす」

「だっダメであります!クルル!」

「全員死ぬよかマシじゃね?ククッ!」

「…行くぞ」

「ダメったらダメ!隊長命令であります!聞けないの!?」


そんな隊長の声を後に、空間転移で移動用機体格納庫へと入る。

流石にソーサーじゃ行けない場所だから、いつもの移動用機体を使う他無い。

早々に乗り込んで座席に座り、目的地を入力後、自動操縦の設定もする。

…夏美と先輩が、ちゃんとこの日向家に帰れるように。


「…クルル」

「?」


ふと、先輩の声がした。

振り返れば思っていたより近い距離で、思わずドキリとする。

平静を保って先輩を見れば、先輩は真面目な顔をして俺の横に立っていた。


「…すまん。見捨てるような事を」

「良いッスよ別に?あ、でも、最期にちょっとお願いしてもいーい?」


最期、なんて言いたくなかったけど。

でも先輩が、あの女と笑ってられるなら…最期でも、いい。


「…なんだ」

「愛してるって言ってくれません?」

「……は、ハア!?きっ貴様こんな状況でなにをふざけた事をっ!」

「ふざけてねェよ、大真面目。最期のお願いなんだしぃ、いいだろ先輩?」


別に愛がこもってなくても、心無い言葉でも。

その言葉を聞けたなら、俺はきっと、安らかに逝ける気がするから。


「…クルル」

「ん?」

「最期だなんて縁起が悪いことを言うな」

「…ク?」


何言ってんの、先輩。

だって助かる可能性、0じゃん。

あんたも夏美も、もしかしたら死ぬかもしれないのに。


ガタンと機体が動き出す。

出発したらしい機体は、座席に座っていない先輩の体を振り回した。

そのせいで俺に抱き付いて、しかも、先輩の口が、俺の口に触れていて。


「…!」


ようやく揺れが落ち着いた頃、先輩がゆっくりと離れる。


どきどきとする心臓、熱くなる顔。

バレる前に何でもないような顔をして、顔を逸らし前のモニターを見る。

先輩はしばらく俺の顔を眺めたあと、離れ際に囁いた。


それに、思わず泣きそうになったりして。














そのあと無事に帰還した俺たちに、隊長たちが泣きながら笑っていた




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ