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□嫌われたいのに愛される
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初めは、ただの好奇心だった。
まだ話せもしない、けれど言葉を覚えた頃。
文字を見様見真似で書いたら、それを両親が見て大喜びして。
すごいなと褒められたのが、ただ嬉しかった。
もっと喜んでほしくて。
もっと褒められたくて。
簡単な計算を解くたびに、父親に見せた。
えらいなと褒められて、本当に嬉しかった。
だから、難しい計算までやって父親に見せた。
父親は、褒めてはくれなかった。
簡単な絵を描くたびに、母親に見せた。
じょうずねと褒められて、本当に嬉しかった。
だから、ちゃんとした道具で家族の絵を描いた。
母親は、褒めてはくれなかった。
なんでだか分からなくて。
でも聞きたいのに、歯も生え揃ってないから発音がうまく出来ず喋れなくて、だから次は話せるおしゃぶりを作った。
おかーさん、おとーさん、すごいでしょ?
ぼく、こんなのつくったよ。
これでいっぱい、おはなしできるね。
褒めてほしかった。
ただ、優しい笑顔で抱き締めてほしかった。
それだけ、なのに。
父親はおぞましいモノを見るような冷たい目をして言った。
『気持ちが悪い。お前はふつうの子供じゃない』
母親は汚らしいモノを見るような冷たい目をして言った。
『嫌味な子。あなたみたいな子供なんか必要ない』
『お前みたいな化け物、生まれて来なければ良かったのに』
理解が出来なかった。
どうして、なんで?
ほめてほしかっただけなのに。
すごいねって、わらってほしかっただけなのに。
よろこんでほしかった、ただそれだけなのに。
軍に売られて、ただ無理矢理発明させられて。
浴びせられる言葉は全て、罵倒や嫌味だけだった。
だから眼鏡を掛けた。
父親や母親のような、あの視線から逃れるために。
ヘッドホンをつけた。
父親や母親のような、あの言葉から逃れるために。
来る日も来る日も、才能というものがあるが故に疎まれて、利用されて。
誰も、誰も俺なんか必要としていないんだと。
必要なのは才能だけで、これを失ったら誰も俺を見てくれない。
歪んでいく性格、世界。価値観。
手を差し伸べてほしかった。
誰かに助けてほしかった。
笑ったら笑い返してほしかった。
俺はただ、愛してほしかっただけ………ただ、それだけ……なのに。