□しょっぱい、にがい
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先輩と恋人ってもんになって、ようやくギクシャクした関係から普通に接することが出来るようになったのは、つい最近。

そんな先輩に、ちょっとくらいイイトコアピールしようかと珍しく気が向いて、ケーキなんか作ったりして。


先輩の階級章と俺の階級章を描いた、甘さ控えめ愛情たっぷりチョコレートケーキ。


美味しいって言ってくれるかな、なんて、柄にもなくドキドキしたりして。


先輩と一緒に食べようと思ってラボを出て、日向家の廊下に足を踏み入れた時に聞こえた先輩の声に、足が止まる。

珍しいなと思ってリビングを覗いて、…覗かなきゃよかったと後悔した。


「もう、ギロロってばほっぺにクリームついてる」

「な…なっ夏美…!?」

「そんなにがっつかなくても、おかわりはいっぱいあるんだからね」


壁に隠れて、聞こえないように耳を塞ぐ。

ケーキが落ちたのも気にせず、うずくまった。


手が震える。胸が痛い。

…おかしいな。

先輩、俺の恋人じゃなかったっけ?


嬉しそうに笑う先輩も、照れた顔する先輩も、大好きだけど。

…なんで、夏美に向けてんの?

先輩、どうして夏美と居るの?


「ギロロ、美味しい?」

「ん…ま、まあ、美味い」

「良かった。紅茶のおかわりいる?」

「ああ」


聞きたくないのに聞こえる会話。

どうして。なんで。



分かんなくて、グチャグチャになる頭を必死に整理しようとするけど、頭を過ぎる言葉は全て、信じたくないような言葉だけ。


本当は、俺なんか好きじゃなくて、先輩は、夏美が好きで。



……うそ、だったのかな。


好きだって、愛してるからって……言ったじゃん。


ああでもそれでも、先輩の言葉は本当に嬉しくて………嬉し…かった…のに。


「夏美」


やだ、やめてよ先輩。

そんな声でそいつの名前呼ばないで。


「ねえギロロ…」


やめろ、ねえ、お願いだから、先輩の名前呼ばないで。


「…っ」


ぼろぼろ涙が止まらない。


本当は俺なんか愛してなかったのかな。


ギクシャクしてたの、本当は俺に対して嫌がってたからなんだろ。

恋人になって、まだ一回も、恋人らしいことしてないのも、全部…全部、本当は俺が嫌だから。



あの時、俺を好きだって言ったのがウソじゃないって言ってよ先輩。


夏美と居ても、俺がなんとも思わないって、平気だって思ってんの?


…平気なわけないじゃん。


「……………ばか…」


手についたチョコレートケーキ。

床に潰れてるチョコレートケーキ。


二人の階級章の間に入る、大きな亀裂。


「……しょっぺえ…」



食べたケーキは全然、甘くないし、美味しくない。


夏美のケーキには……勝てなかった。







しょっぱい、にがい








だけどずるい俺は、先輩から離れたくないから

気付かない振りをしながら、今日も先輩の隣に居る





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