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□寝てる王子に
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寒い夜。
だけど暑いくらいなのは、隣に居る先輩のせい。
宿代節約にと三人部屋に五人で寝泊まりしてるので、必然的に誰かが誰かと寝なきゃいけない状況で、俺は何故だか先輩と寝ていた。
確かギロロ先輩はドロロ先輩と寝て、俺は一人で布団を使っていたはず。
…なのに、なんで先輩は俺の布団に居るんだろうか。
しかも俺の手を握り締めて。
「(……あつ)」
顔もからだも、全部あつい。
早くなる鼓動は、完全に眠気を奪っていた。
目の前にある顔。
規則正しい寝息をたてるその顔は、いつもの先輩と違って可愛く見えた。
「(……ギロロ先輩…)」
どきどきと心臓が鳴る。
このまま時が止まっちまえば良いのに…。
「…夏、美…」
「!」
先輩の口から飛び出した名前。
同時に強く握られた手。
…ああ、そっか。俺を夏美だと勘違いしてるのか。
「…………好…きだ…」
「…っ」
俺が言われた訳じゃない。
俺に言った言葉じゃない。
……俺は、夏美じゃないよ、先輩。
「……ん…」
「!」
不意に動いた先輩の口が、俺の手に当たる。
それに全身が火傷したみたいに熱く、赤くなった気がした。
パニックになる俺は慌てて腕を引くも、先輩は握る手を強くして離さない。
「…なつ…み」
違うよ先輩、俺は夏美じゃないよ。
…やめろよ、もう。
「……ギロロせんぱい」
なあ、俺の名前呼んでよ。
あの女じゃなくて…クルルって…呼べよ。
……呼んでよ、先輩。
「…せんぱい……好きだよ…」
あんたがあの女を好きでも、あの女しか見てなくても。
俺はずっと、先輩の事…好きだから。
だからちょっとくらい…俺を見て、先輩。
「……せんぱい」
寝ている王子に内緒の口づけ
心が悲鳴を上げてるのは
きっと気のせい