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□いつまでもこのまま
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「どうしようかねェ」
ついつい漏れた独り言。
行き交う奴らを見ながら、思わず溜息まで出てしまう。
買い出しにと連れ出した赤いダルマ――…もとい、ギロロ先輩が居ない。
居ないというか、いつものようにちょっとからかったら、怒ってどこかに行ってしまった。
「……」
せっかく、2人で買い出しという貴重な時間だったのに。
ついつい嫉妬から出た言葉で、それを台無しにしてしまった。
買い出し中に武器が見たいと言った先輩に付き合って立ち寄った店。
ビームサーベルを頭悩ませ必死に吟味する先輩の口から漏れた、「夏美」という名前。
それに、思わず口から嫌みが飛び出した。
『そんなもの喜ぶわけねェじゃん。アホくさ。先輩って本当変な思考だよな。だからダメなんスよ。モテない人はこれだから…』
普段なら耐え忍ぶ事が出来る嫉妬。
だけど、せっかく2人で居たのに恋敵の名前を出されたら抑えられなくて。
先輩は俺の気持ちなんか知らないから、ただ怒って行ってしまった。
「っ!」
どんっと通行人が勢い良くぶつかってきて、急なことで受け身もとれなかった俺は派手に転んだ。
起き上がれば、足は血を流している。
「……アホは俺か」
我慢すれば良かったのに。
嫉妬なんか素知らぬふりして隣りに居たらよかったのに。
じわりじわりと、視界が揺れた。
痛む足を引きずりながら、目の前にあったベンチに腰を下ろす。
目の前を横切る宇宙人共の声がうざったくて仕方がない。
帰れば良いのに、足は動かなかった。
血を流す足を見て、苦笑が漏れる。
「…先輩…探しに来てくんねェかな…」
来るはずないと知りながらも、僅かに期待する愚かな自分。
俺が夏美なら、先輩は必ず戻ってきてくれるだろう。
泣いていたら、不器用にも慰めてくれるんだろうか。
……俺が夏美なら…。
「クルル」
「!?」
聞こえた声に弾かれるよう、顔を上げた。
見上げられば、今の今まで想ってた先輩で。
「…怪我したのか」
「……ククッ。先輩が俺を一人にするからァ」
「バカモン。怪我は己の不注意だろうが」
「ひっどぉい先輩」
迎えに来てくれたのかな。
探してくれたのかな。
こんな事で嬉しくなる俺は、先輩以上に単純かもしれない。
「…痛むか?」
「ん…まあ」
「…泣いてたのか?」
「は?」
「……濡れてる」
じっと見つめられる視線に、じわっと頬に熱が集まる。
慌てて顔を反らしながら目元を拭うと、確かに濡れていた。
「…なんでもねェッスよ」
「…そうか」
「ククッ、それよか先輩はなにしに来たんスか?クルたんのお迎え?」
「そうだ」
「…え」
先輩の言葉に、思わず先輩を見た。
全く歪みない真っ直ぐな目が俺を見る。
「怒鳴って悪かった。…買い出しの任務を忘れ私用に走ってすまない」
「……真面目ちゃんスねェ…」
俺のためじゃなく、任務のために戻って来たわけか。
…まあでも、今はそれでも良い。
「…、足を見せろ」
「ク?」
「手当てしてやる」
どこから取り出したのか、水の入ったペットボトルを取り出して傷口にかける先輩。
痛みに顔をしかめたうちに、簡易な手当てが素早く施された。
「ククッ…持ち歩いてんのかよ」
「ちょうどさっき買ったんだ。まさか早速役に立つとは思わなかったがな」
「……礼は言わないぜェ」
「勝手に手当てを施したのは俺だからな。必要ない」
「…あっそ」
…本当、どこまでも優しい人だよな。
だから俺みたいなのに好かれるんだぜ、先輩。
「…おんぶ」
「……」
自分で歩けといつもなら怒鳴るくせに、先輩は黙ってしゃがみ込んだまま背を向ける。
信じられなくて見ていたら、ちらりと先輩が顔を向けた。
「…早くしろ」
「……ククッ!んじゃお言葉に甘えてェ」
思いっきり体当たりするみたいに飛び付く背中。
恨めしそうな顔をされたが、すぐに立ち上がる先輩。
「…お前痩せたか?」
「あ?」
「前に持ち上げた時より軽いぞ。何食ってるんだ」
「!」
何かしらで逃げる際には必ずと言っていいほどギロロ先輩かドロロ先輩におぶってもらってたけど。
…体重変わったのに気付いてくれたのが、こんな嬉しいなんて。
「……ククッ。毎度毎度、おぶられてみるもんだなァ」
「ハア?」
「別に?あーなんか腹減った。カレー食いてェ」
「いつも食ってるだろうが」
「カレー食いに行きません?」
「……しかたないな」
そう溜息つく先輩にこっそり笑いながら、俺はいつものようにギュッと先輩にしがみついた。
いつまでもこのままいられたら良いのに
嫉妬しても泣いても、先輩に優しくされたらその瞬間に幸せになるんだ