□あたたかい、つめたい
1ページ/1ページ




マロン人の奴らとの別れを終えて、ようやっと家に帰って来たら押し寄せる安堵感と疲れから来る睡魔。

うつらうつらしそうになりながら、本部への報告書を書き上げる。


「クルル」

「…んァ?」


突然ラボに響いた声。

振り向けば、ギロロ先輩。


「疲れているところすまんが、話がある」

「…なんスかァ?」


眠たいまぶたを必死にこすり、先輩を見つめる。

先輩はそんな俺を見て、顔をしかめた。


「…手短に言う」

「…あ?」

「……今回みたいに無茶なことはするな。今後なにかあったなら必ず直ぐ俺たちを頼れ」

「……ク?」

「それだけだ」


意味が分からず、きびすを返そうとする先輩に声をかける。


「なんスかそれ。…頼れって言われましてもちゃんと頼ったつもりでしたけどォ?」


一人じゃ無理だったから、あんたら引き連れていったんじゃん。

まあ詳しい事も任務の事も、結局最後まで黙ってたっスけどネ。


「あれは頼ったんじゃなくて"利用した"んだろうが」

「おや、お気づきで?」


そう言って笑えば、ギロロ先輩は更にしかめっ面をして俺を見る。

それから直ぐに溜息をついた。


「…話がずれたな。言い方が悪かった。違う。俺はそう言うことを言いに来たんじゃなくてだな」

「はい?」

「……心配をかけるなと言いに来たんだ」

「…心配?」


いったい何が。

視線だけで訴えれば、先輩は真面目な顔で俺を見る。


「今回の件。俺はかなりお前が無理をしていたように見えた」

「…クル?」

「お前はいつ休んでいた?…皆が寝静まったあとも、休まずに一人無理をして兵器を作っていただろう」

「……!」


ガラにもなく真面目に必死に作ってた兵器。

一人焦りながら、暗闇に灯る小さな明かりを頼りに作ってた。

それを、この人は気付いていたなんて。


「気付かないとでも思っていたのか?…マジメにやっていたお前を、俺はちゃんと見ていた」

「…な」

「そんなお前を見てたら余程の事なのだと、少し焦って…俺は正直怖かった。まさかキルルが関わった極秘任務とは思わなかったがな」

「くく…任務が怖かったって?随分小心者になっちまったんスねェ」

「違う。そうじゃない。それに関しては、不謹慎だが少し実戦的だと思っていた」

「あらま」

「……怖かったのは、お前が無理をしすぎて倒れるんじゃないかと思ったからだ」

「……!?」


予想もしなかった答えに、思わず目を見張る。

黙ったままでギロロ先輩を凝視すれば、相変わらずしかめっ面のまま俺を見つめた。


「…あまり心配をかけるなよ」

「心配って…俺は別に」

「お前は何でもかんでも一人で解決しようとするだろう。…今までお前がどんな生き方をしてきたかは知らんが、今は俺たちが居る。だから一人で抱えるのはよせ」

「……」


真っ直ぐな目。

俺の苦手な、目。


「(なのに、なんで)」


泣きそう?

まさか。そんな事、俺に限って。


ああなんだ、このじわじわあったかくなる感じ。


何か、溶かされるみたいな…。


「クルル。今後困ったりした時は必ず俺たちを頼れ。力になってやるから」

「極秘任務はベラベラ喋れねえだろ」

「喋らなくても頼ることは出来るはずだ」

「……上司に偉そうなこと言いやがって」

「お前が上司でも、お前は俺の後輩だ」


…なんだよ、子ども扱いなんかして。


「…おせっかい」

「なら心配かけるな。素直に甘えろ。俺たちは大歓迎だ」


大歓迎?おいおい冗談だろ。そんなの。

あんたらなんか、侵略終わったらさっさとサヨナラするのに、甘えるなんてそんな、心開くみたいなこと。


「あんた俺のこと嫌いなんだろ」

「…本当に嫌いなら、貴様なんか気にもせん」

「!」


…ああ。

……ああ、もう。

なんだってあんたは、俺の心ん中にズカズカ入ってくんだよ。


「…くだらねえ。俺はあんたなんかキライだ」


キライ。

嫌いだよ。

嫌いだって思うことで、俺は。


「クルル」

「……」

「……俺は、頼ってくれるのを待ってるからな」

「!」

「じゃあ、邪魔したな。ゆっくり休めよ」


小さくなって、遮られ見えなくなる背中。

ああもう、ダメだ。

感情が溢れる。

騒ぎ始める心。


ほらみろ、アンタが優しくなんかするから、俺は











あんたが好きだなんて

認めたくなかったのに



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ