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□キミとの隣に居るのはボクだけで良い
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「ほう、地球の夏祭り」
そう先刻前に興味津々に言ったのは、紫色したケロン人。
何しに来たのかさっぱり分からないが、小隊連中共々地球に来て間もなくして耳にした「夏祭り」の言葉に、小隊連中の顔色が僅かに変わった。
結局隊長が接待だなんだで、一緒になって夏祭りに来たわけだが。
「(つまんねえ)」
目の前には愛しい先輩。
だけども先輩の目に、俺は一切映らなかった。
「ギロロ先輩」
「ケロロ!接待費にいくら使うつもりだ!?」
「いやぁ〜だってさぁ」
「あっタママ師匠!オイラあのリンゴ飴っての食べてみたいッス!!」
「しょーがねえなー。…軍曹さぁんっ」
「んもーしょうがないでありますなあ。ま、これも接待だから仕方ないであります!」
「ギロロ先輩ってば」
「無駄遣いと接待費は違う!」
「そうよケロロくん。接待費の予算とかちゃんと決めてる?」
「なァ、ギロロ先輩」
「プルルに財布を預けたらどうだ!」
「えぇ〜?」
…全く、見向きもしねぇ。
「…ギロロ先輩」
なんだよ、俺だって居るのに。
隊長たちのお守りより、俺と居てほしいのに。
チラリと背けた視線の先。
苦笑を浮かべたガルル中尉と、いつから居たのか分からない、影の薄い人物。
隊長たちが騒ぐ中で、2人は顔を見合わせ静かに笑い合っていた。
「ケロロくん、接待なんて気にせず各々楽しんでくれ。我々も好きなようにさせてもらうよ」
さり気ない動作で、ガルル中尉の手が隣の男の手に伸びる。
隊長たちは気付いていないらしい、目を輝かせ、素直に従った。
騒がしい連中が散り始めて、ようやく少し静かになる。
ホッとしてギロロ先輩を見たら―――先を越されていた。
「トロロは行かないのか?」
「疲れたんダヨ!おんぶ!」
「…確かに人混みは慣れないと辛いからな」
……なんだよ、俺だって…疲れたけど…。
トロロを背負って、ギロロ先輩はとうとう背を向ける。
「せっかくだから…何か食べるか?」
「ピザ」
「…ピザは無い」
「えー……じゃあ……タルルが言ってた、リンゴ飴でイイヨ」
「そうか。なら行くぞ」
……行くぞ、って…。
クソガキを背負ったまま、人混みに消えた先輩。
いつの間にか一人残された俺。
「……なんで…」
なんで、先輩。
先輩と一緒に居たいのは俺なのに。
俺は先輩が一緒ならって思ってついてきたのに。
…なんだよ、なんで俺…。
「クルル曹長」
「!」
ぼやけ始めた視界に、紫色。
その隣には、灰色が居た。
「すまない。各自自由にと気を利かせて言ったつもりだったが、少々誤算だったようだ」
「…あ?」
「トロロ新兵は私たちが引き取って来よう。…なあ、ゾルル」
…ああ、ゾルル、だっけ。
なるほど、二人はトクベツな関係ってやつか。
仲良く手なんか繋ぎやがって、見せびらかしにもほどがある。
「…お二人の邪魔になるんじゃねェんスかァ」
「ああ、気にしなくて良い」
そう言いながらゾルルの手を引いて人混みに入って行くガルル中尉。
しばらくしてから、やけに騒がしい声がした。
その方向に目を向けると―――赤い、人。
「クルル!」
人混みを掻き分け、走って来る。
それだけのことに、何故だかまた視界がぼやけ始めた。
「…すまん」
ようやく近くまで来たところで、先輩がすまなそうな顔でそう言った。
その顔を見たらますます目頭が熱くなるもんだから、いろいろ言いたいことはあったが構わずに抱き付いてやる。
どこにも行かないで、なんて言いそうになったがなんとか飲み込んだ。
「…クルル、ほら」
「……?」
甘い匂い。
顔を上げたら、小さなリンゴ飴。
「…これ」
「お前の分だ。なのに付いて来ていないから驚いたぞ」
「……く…?」
「ガルルが丁度良く来たから、トロロを任せてお前を迎えに来たんだ」
「…ガルル中尉に言われて来たんじゃねェの…?」
「ガルルが何か言ってたのか?」
不思議そうな顔をする先輩。
その顔に、思わず笑ってしまった。
当然ギロロ先輩は訝しい顔をするが、構わずにまた抱き付いて顔をすり寄せる。
「く、クルル…?」
「…今からなら、二人っスか?」
もう誰にも邪魔されないだろうか。
そういう心配を込めて見つめれば、ギロロ先輩は笑って額にキスをくれる。
「ああ、そうだな。二人で行くか」
その答えに満足して、俺はまた先輩に抱き付いた。
キミとの隣に居るのはボクだけで良い
「じゃあ、手握るかおんぶかどっちかして」
「仕方ないな」
「くくっ」