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□いつでも私だけ愛してね?
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小隊慰安旅行に、何故だか付いて来た地球人共。
いつものようにトラブル&アクシデントが待っているのだろうかと、少し気分が良かった。
一足先に海へと駆け出した隊長とガキ。
それに続くようにドロロ先輩が入って、それから――…
「(……ギロロ先輩、楽しそう)」
視線の先の赤ダルマ。
海上訓練だと一人別な意味で張り切っていたが、どう見ても泳ぎを楽しんでいる。
「おっまたせー!」
「おじさま〜ビーチボールを持ってきました〜!ってゆーか、球技大会?」
「軍曹〜!あとであの畔に行こうよ〜!面白そうな噂を聞いたんだー!」
「ふっふゆふゆふゆゅ冬樹くんっわっわた、私もご一緒しますすす…っ」
「夏美さんっ!あっちの岩場まで競争しましょうっ」
あとから水着姿でやって来た地球人たちとアンゴル娘。
騒がしくなったもんだなと、再び赤ダルマに目を戻した。
「(――…ん?)」
先輩の顔が、こっちを向いていた。
慌てて逸らすが、別に目が合ったわけじゃない。
先輩がこっちを見てる――かと思えば、俺を見ている訳じゃなくて。
「(…………あ)」
俺のすぐ横にいた、地球人。
俺の、大嫌いな女。
「(……ギロロ先輩…?)」
なんで、夏美を見てんの?
夏美は見覚えの無い、少し背伸びた水着を着ていた。
地球の男なら、多分声をかけたくなるような姿。
「な、ななな、夏美っ」
いつの間にか、ギロロ先輩が近くまで来ていた。
俺に気づかず…夏美のところへ。
夏美だけを真っ直ぐに見つめて、赤らんだ顔で、ちょっと挙動不審なトコロ。
…夏美が好きだった時の、ギロロ先輩。
「ギロロ、どうかしたの?」
「あ、ああ、いや、その…なんだ………お、泳ぐなら、安心しろ。ここ一帯は、安全だからな」
「そ。ありがと。でも何かあったときは宜しくねギロロ」
「あっああ!」
………なんだよ。
何かあったときに、助けるのは俺だろ?夏美じゃないだろ?
あんた、もう夏美は好きじゃないって…言ったよ、な?
ギロロ先輩は夏美を追う。
優しい顔。
いや…少し、デレッとした、俺の嫌いな顔だ。
「(………ギロロ先輩の…浮気者)」
…いや、浮気者…はおかしいか?
もしかしたら…ずっと、まだ…。
「(……俺…片想いかも)」
自信が無い。
あんな風に、女を見て、あんな顔して。
……………先輩が…俺を好きなんて…妄想だったのかも。
「……ちっ」
むしゃくしゃしたので、取り敢えず近くにあったガンプラを勢い良く先輩目掛けて投げ飛ばした。
見事命中したガンプラは無惨に壊れ、赤ダルマと緑饅頭が騒ぎ出す。
「ばーか」
赤い方に言えば、地獄耳らしいダルマはますます真っ赤になって怒鳴っている。
ああ、うざ。
なにも分からねーのかよ。
とうとうそっぽを向いてしまった赤いダルマ。
……もう、見てもくれない。
「んもーっ!!!!我輩の大事なジオングに何す……あり?クルルどったの」
「…別に」
ガンプラの件を注意しに来たらしい隊長が、俺の顔を覗き込む。
いつの間にか先輩は、また海にいた。
「(…また、夏美を見てやがる…)」
悔しい。
俺なんかここに来て会話も……目すら、まともに合わせてないのに。
…寂しい。
「…ギロロも悪い奴でありますなぁ」
「……」
「クルル、ちょっとくらい我が儘言えばいいのに」
「…我が儘?」
「俺だけ見ろー…っとか?」
「……」
…言いたいけど、言えるわけ無いだろ。
もしかしたら…俺の独りよがりかもしれない。
我が儘言ったら、迷惑がられるかもしれない。
……嫌われたく、ない。
「…先輩をあんま、縛りたくないんスよね」
フラれたときに、「ああやっぱり」って笑えるように。
先輩も、「良かった」って気にすることなく笑えるように。
「…先輩に……重い愛情とか合わねーよ」
…だから、言わない。
くつくつ笑えば、隊長が一瞬だけ泣きそうな顔をした。
それからちょっとだけ真剣な顔をして、小さく「ちょっとゴメン」と謝罪したかと思えば―――何故だか俺を押し倒して馬乗りになっていた。
「…なんスか隊長ー」
「あんまり悲しい事言うなであります。まあ直ぐに、そんな事杞憂に終わるでありますよ」
何のこっちゃ。
とにかく邪魔だと睨んだ瞬間、隊長の身体が勢い良く俺の視界から消えて吹っ飛んだ。
当然、全くもって状況が理解できない俺を、赤い腕が抱き締めてきた。
「クルル、無事だな!?」
「……あ?」
「ケロロ貴様!クルルになにをする気だっ!」
……全くもって意味が分からねェ。
先輩なに怒ってんだ。
…夏美は…
「…夏美はどーしたんスか、バカダルマ」
「ばっ、バカダルマだァ!?」
「そーだろ、実際。つーかなに、なにしに来やがったんだよ」
最終的に夏美のところに戻るなら、別に来なくて良いのに。
そう思いながら舌打ちして赤い腕から逃げ出そうとしたら、強く抱き締められてしまった。
「…イテェよ」
「……貴様にガンプラを投げられた俺の方が痛かった」
「でも心の傷は俺の方が何万倍もイテェよ」
何も分かってくれない。
俺がどんな気持ちでいるか知らないくせに。
「夏美が良いなら行けよ。俺帰るから」
「んなっ」
「俺が居なきゃ心置きなく夏美と居られるだろ」
…俺だって、心置きなく泣けるから。
そう思ったら、今度は緑饅頭の声がした。
「ギロロの浮気者っ!!甲斐性なしっ!!おたんこなす!!」
「なっ!?」
「クルルの気持ちくらい考えろであります!我輩がクルルなら、もっともっとギロロを殴ってるでありますよ!!」
訳が分からないと顰めっ面をした赤ダルマ。
それから「…浮気者?」と呟いて、ハッとしたように俺を見た。
「ちっ違っ、浮気じゃないぞ!?」
「鼻の下伸ばしながら夏美見てデレデレして俺なんか見向きもしなかったのにかい?」
「断じて違う!」
「じゃあ何で俺の側に居ねーんだよバカダルマ!」
「!」
…うわ、しまった。
怒りに任せて変なこと言っちまった。
「……今の無し、何でもねェ、忘れろ」
唖然とした赤ダルマの腕から簡単にすり抜けて距離を取る。
しかしその距離はすぐにまた縮まってしまった。
「忘れるなんて出来るか。……そうか、居て欲しかったのか」
「うぜえ、離れろ」
「却下だ」
「上司に逆らうってか」
「最初の言葉に従うまでだ」
…なんだよそりゃ。
「仕方なくで居られるのは迷惑なんスけど」
「困った奴だな、浮気じゃないと言ってるだろうが」
「じゃあ何でデレデレしてやがったんだ」
「……デレデレしたつもりはないが、確かに過保護になっていた部分はあるな。反省しよう」
「いやだから、」
「俺が好きなのはクルルだ」
「……、……………ばかだるま」
そんな事言って誤魔化すな。
嬉しいなんて思わないからな、全然。
「…夏美のところ、もう行かない?」
「行かない」
「デレデレもしない?」
「してないと言ってるだろうが」
「…してたもん」
「うっ。わ、分かった、しない」
「…………じゃあ、夏美の前でちゅー出来る?」
これが出来たら信じてやるよ。
そう挑発半分不安半分に見つめれば、真っ赤な顔した赤ダルマ。
それから俺を横抱きにして立ち上がると、ずんずん夏美に近付いていく。
隊長に視線を向ければ、やれやれと肩を竦めていた。
…傍観者を決め込むつもりらしい。
「なっ夏美っ」
「なによ、ギロ……本当何やってんのあんたたち」
「おおお俺はクルルが好きだっあっああああいっ愛しているっ」
「し、知ってるわよそんな事…」
夏美が言い終わるか終わらないか。
そんなタイミングで、唇が塞がった。
視界に広がる赤。
薄目を開けた目と目が合って、ドキリとした。
「ちょ、ちょっとなに!?」
「いや、あの、クルルがその………いやっ、お、俺がしたかっただけだ!」
「く…!?」
…ギロロ先輩…なんで。
「…何なのよ本当…あーもう、バカップルは余所でやってよね!行こう小雪ちゃん」
そそくさ退散する夏美。
ギロロ先輩を見れば、真っ赤な顔をしながらどこか誇らしい顔。
「…よくやるぅ」
「まあ、愛しているからな」
「………ばーか」
ああほんと、……俺も大好きだっつの。
いつでも私だけ愛してね?
「ガンプラ壊されるわ殴り飛ばされるわ、散々であります!」
「ご苦労様でござる、隊長殿」
「さすが軍曹さんですぅ!…でもあのバカップルはいい加減にしてほしいですぅ」
「愛しているクルル」
「くくっ、もう一度。寂しい思いさせたんだから、満足するまでですよォ?」