□相手にしなかった時間の分は覚悟しろ
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さて、どうしたらクルルは、俺の方を向くだろうか。


空調がきいた涼しい快適なラボ。

目の前には物凄い早さでネットオークションとやらを捌いているクルル。

かれこれ一時間、俺を見ることも俺と話すこともなくただ時間だけが過ぎていた。

寧ろ俺のことなど忘れているかもしれない。


「(久し振りに時間がとれたのに)」


最近はいろいろあってなかなか二人きりでは会うことが難しかった。

それが今日、なんとか二人だけの時間を作って来たのに。


「クルル」

「あとでー」


そんな生返事をしながら、クルルは相変わらずパソコンに向かう。

何か、クルルの気を引けるものはないだろうか。

ぐるりと見渡した先には、クルルが作ったらしいカレー。

カレー…は、まあ、確かに良い線かもしれない。


「(ちょうど腹も減ったからな)」


ご飯を確認し、カレーを温める。

カレーの匂いがし始めた頃、ぴくりと反応を示したクルルが顔を上げた。


「クルル、」

「俺も食う」


それだけ告げて、今度は立ち上がってモニターへと顔を向けた。

タッチパネルを器用に押しながら、よく分からない作業をし始める。


カレーが温まるのを待ちながら、カレー作戦は失敗だったかとため息をついた。


次はどうしたら良いだろう。

大好物のカレーを前にしても、あんな反応。


「…く、クルル、肩凝ってないか?マッサージしてやるぞ」

「いい」

「……そうか」

「カレーかき混ぜてないと焦げるっスよ」

「あ、ああ、スマン!」


……って、カレーの事しか気にせんのか。


だいぶ温まったカレーをよそって、クルルに持って行く。

今度は無言で「そこに置け」みたいな指示をされたので、静かに置いた。


「なあクルル……久し振りに出掛けないか?」

「今忙しいから」

「…クルル」

「ちょっと黙っててくれます?今集中してェの」

「………」


何なんだ。

俺はお前と、一緒に過ごしたいと思っているのに。
クルルはどうでも良いのか。


あまり気が長い方ではない俺は、食べ終えたカレーを洗浄機に突っ込んで苛立ちを隠さないままに出入り口へと向かう。

こんな所に長居は無用だ。
一時間以上の無駄な時間を、訓練の時間に当てれば良かった。


「帰る。じゃあな」


せめて一言くらいは掛けてやるかと、クルルに背を向けたまま吐き捨てた。


――瞬間、背中に飛び付く暖かなもの。


「…っ!?」

「……だめ」


それがクルルだと分かって、思わず足が止まってしまった。

振り向いて向かい合わせになれば、クルルの顔が少しだけ泣きそうな顔に歪んでいる。


「おい、クルル」

「…行くなよ先輩……もうちょっとで終わるから」

「……クルル?」

「…先輩と、居たい…」


控えめに握られた手。

顔が一気に熱くなって、思わずクルルを抱き締めた。


「クルル、終わるまで待てんのだが」

「……、いや、我慢しろよ」

「もう充分待ってやったはずだ」

「んっ、…も……ギロロ先輩…っ」

「好きだクルル」

「んん…っ!」
















しっかりたっぷり、愛してやるから






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