□ラボの空調が壊れたらしい
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「ギロロ先輩が、デート?」

「そうらしいであります」


ガチガチに緊張してたでありますよ、とかなんとか笑いながら言う隊長の言葉に、胸が痛いくらいに苦しく感じた。

誤魔化すようにモニターを眺めて、―――日向家に居ない、赤い人を探す。


「クルルが夏美殿にあげたんデショ?遊園地のチケット二枚分」

「クク…さァ、どうだったかねェ」

「この間ギロロが夏美殿を助けたとかで、そのお礼に連れて行ったみたいであります」

「……あそ」


遊園地のチケット。

確かに、日向夏美に渡してやった。

本当はギロロ先輩と行くつもりでいたけど、そんな親しい間柄でも、ましてや俺が誘ったところで来やしないと知っていたから……最近落ち込みがちなギロロ先輩でも誘ってやれば、と、地球じゃちょっと有名な遊園地のチケットをあの女にあげた。


「ギロロ、元気になるといいでありますなぁ」

「くく、そんなの俺の知ったこっちゃねーよ」

「クルルったら冷たいっ」

「で、それがどーかしたんスか」


いちいちそんなこと報告するなんて暇なもんだと笑ってやれば、隊長は苦笑して早々にラボを出て行く。

静かな空間が、何故だか無性に寂しく感じた。


「(…、やらなきゃ良かった)」


"後悔先に立たず"とは、よく言ったもんだ。


「だらしねー顔してんだろうなァ…」


悔しさも悲しさも、とうの昔にゴミ箱にポイした。

残ったのは…虚しさだけ。


俺には出来ない、先輩を笑顔にする事を。

俺に出来るのは、先輩の笑顔を守ること。


デートに問わず、夏美と居る先輩の邪魔は一切しないようにしている。


「(あ、発見)」


追跡掛けて、モニターに映して。


………本当、何やってんだろうな。


「(…顔、緩んでんぞ…ロリコン赤ダルマ)」


まだ向かっている途中なのか、二人並んで歩く様は端から見たら…俺から見たら、恋人に見える。


「…よかったッスねェ…」


うっかり零れた、何とも皮肉めいた言葉。

喉の奥で笑ってから、音声を拾ってやろうと手を伸ばす。


『ギロロ、何か飲む?』

『ん、あ、ああ…いや、大丈夫だ』

『そ?』


嘘つき、緊張して喉からからのくせに。


『そ、それより夏美』

『なぁに?』

『き、きききゅ急にこんな遊園地など、ど、どうしたんだ?』


あーららあ、そういうこと聞いちゃうからダメなんだぜェ、オッサン。

黙って楽しんでりゃいいのに。


『ああ、クルルに遊園地のチケット貰ったのよ』

『………クルルに?』


……ん?


『最近あんたが元気無いから誘ってやれってさ。案外仲間思いなのね、見直しちゃったわ』


余計なことを、と舌打ちが出る。

先輩を見れば、驚いた顔をして、それから少し顔を俯かせてしまった。


ああほんと、何落ち込ませること言ってくれてんだ怪力女。


台無しじゃねェか。


『…すまん夏美、やはり帰らせてもらう』


ああ、ほら。


『ギロロ?』

『サブローでも誘うといい。ちょっと用事を思いだした』


…何だよ、帰るなよ。
チケット高かったんだぜ?


「…バァカ」


宣言通りきびすを返してしまった先輩。

ちょっと顔が怖いのは、落ち込んだからなのか、それとも俺が仕組んだことだと知ったからなのか。


日向家に戻る先輩を映してから、モニターを切る。

失敗だったか、と舌打ちして椅子に深く腰掛けた。


どれくらいそうしていただろうか、多分、そんなに時間も経たぬ間に、ラボの扉が開く。


「クルル」


響く声に、どきりと胸が脈打つ。
これはもう反射だ。
バレるようなへまはしない。


「…何スかァ?」

「………寝て、いたのか?」

「んー…」


近付く気配。

椅子ごと振り返れば、ほんの少し申し訳なさそうな顔をしている先輩と目が合った。


「すまん、起こしたか」

「いーえ別にィ。で、何スか」


お説教、じゃあないよな?

別に怒られることはしていないし。


あれこれ模索していたら、不意に近寄ってくる先輩。


「…?」

「クルル」

「……く?」


だから、なんだっつーの。

無意味に名前呼ぶなよ、俺の目を真っ直ぐ見るなって。


「何スか、夏美とのデート放り出してまでする重要なお話でも?」

「なんだ、知っていたなら話が早いな」

「く?」

「…俺を、心配していたそうじゃないか」

「!」


心配って。
なに言ってんだよこの人。
頭おかしいだろ。

ただ自分じゃ誘えなかったから夏美にチケットやっただけだ。

心配とかじゃなくて、俺は別に、あんたが本調子じゃないとつまらないと思っただけで。


「……ば、かじゃねーの」


結局、口から出たのはそんな言葉だけ。

先輩は優しい顔して笑うし、本当、何なんだよ。


「否定はしないんだな」

「な、なに」

「心配かけてすまん、もう大丈夫だ」

「…別に、知ったこっちゃねェし」

「そうか」


…なにが、そうか、だ。

妙に嬉しそうな顔しやがって。
気持ち悪いっつの。


そう思ってたら何故だか、頭を撫でられた。


驚いて先輩を見たら、これまた嬉しそうな優しい顔で。


…ああもう、本当なんなんだ一体。



調








だってスゲエ暑いもん

ああほんと、あちい。




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