□リンゴと王子様
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毒リンゴを食べた白雪姫は、王子様のキスで目覚めて幸せになりました。


こんなくだらない地球のおとぎ話。

キスで目覚めてハッピーエンド。

そんな夢に溢れたおとぎ話は、ヌルい地球人たちに似つかわしい作り話だと思う。


赤いリンゴを一かじり。

毒があるわけでも眠りに落ちるわけでもない、普通のリンゴ。

そういえばリンゴは禁断の果実でもあったっけ?


「クルル」

「く?」


振り返れば赤い人。
残念なことにリンゴではなく自分の先輩であり部下であり、大好きな人。


「急にリンゴを食べるからと呼び出しておきながら、一人で先に食べてたのか」

「…ちょっと思うところがあってねェ」

「なんだそれは。どうせまたろくでもない事なんだろう」


ろくでもないとか言いながら、優しい目をして俺の頬を撫でる熱い手。

そんな愛おしんだ目で見るなよ、恥ずかしくてたまらない。

顔を背けようとしても、先輩の手によってそれは阻止される。


「…クルル」

「ん…」


優しいキス。

俺の場合は目が覚めるわけでも逆に眠りに落ちるわけでもねェが、幸せになるところは同じだろうか。


「…リンゴ味だな」

「カレー味のほうが良かったかい?」

「……別に、何だって良い」

「…ん…ッ」


それにしたってこの人は、随分とキスがお好きなようだ。

リンゴじゃなく俺を食べにきたつもりなら、早々にご退場していただこう。


「…っは…先輩、リンゴ…」

「……お前も負けじと赤くてうまそうだが」

「昼間から何言ってンだ…地獄に落とされたいのかァ?ギロロ先輩」

「……」

「ん、ん…ッ」


手からリンゴが奪われて、自由になった両手はさまよいながら先輩の背中へと行き着いた。

離れる頃には呼吸すら満足に出来なくて、先輩に頭を預けて甘える。


「……なァ、せんぱい」

「なんだ?」

「リンゴって…アンタみたいだな」

「……意味が分からん」


赤くて丸くて。

それだけじゃない。

毒があるからなのか、それとも魅力的だからか、ついつい食べてしまうほどの魅惑的なリンゴ。

食べたら最後、眠りへと誘って王子のキスを待つ。

禁断の果実は食べてしまえば心が揺らぐから、決して食べてはいけないのに。


食べたらもう戻れない。

好きになったら、嫌いになれない。

もっともっと、欲しくてたまらなくて、魅了されて。


甘いキスに、更に夢中になっていく。


「……ギロロ先輩、好き」

「ど、…どうしたんだ、珍しい」

「……好き」

「…愛している、クルル」


好きになればなるほど、苦しくてたまらないのに。


魅惑にとりつかれて、後戻りなんて出来なくて。


「…ギロロ先輩、俺が死んだらあんたのせいだぜ?」

「は…な、何を言ってるんだっ」

「…アンタが好きすぎて死んじまいそうだ」


本当に、この腕の中なら死んだって良い。

そう呟けば、キスをされて。


「…俺を好きなら死ぬんじゃない。俺はお前を……クルルを、愛しているから生きるんだ」

「……」


ああ、そっか。そうだな。


毒リンゴも禁断の果実も、すべて愛する人の為にあって、食べたら幸せになる果物で。


「…先輩は俺にとって、リンゴだけど王子でもあるんだな」

「…さっきから何なんだ、貴様は」

「……よーするに、もっと愛してくんなきゃ満足出来ねェってカンジ?」

「…昼間はしないんじゃなかったのか?」

「禁断の果実食っちまったんだ、しないわけにいかないっしょ?」

「……意味が分からん」


分かんなくて良い。

あんたは俺にとってのリンゴであり、王子様であり、本当に本当に、愛しくてたまらない人なんだ。

俺だけが知ってれば、いい。


「クク…ギロロ先輩、いっぱい愛して?」

「…リンゴはいいのか?」

「こっちのリンゴとあんたの可愛いリンゴ、どっち食べたい?」

「……クルル、お前に決まってるだろう」


低く囁かれる甘美な言葉。

優しく触れる甘いキス。


…ああ、くせになる。
















物語がハッピーエンドなら

俺たちもきっと、ハッピーエンドだろ?




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