□ずっと夢に見ていた。
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前世の記憶があるか否かと問われた場合。

普通、「ノー」だと答えるだろう。


だが、俺は違った。

うっすらだが、覚えている。

親友がいて、後輩がいて。


幸せだと思うような日々がそこにあった。

そして隣には決まって、愛おしくて堪らない、ひねくれ者の後輩が居た。


「クルル」


目の前にいる、黄色。

前世の記憶に必ず居た、愛おしくて堪らない後輩。


「クルル、また変なものを作ってるのか」

「クック、オッサンにゃこのセンスが分からんのかねェ」

「……貴様のセンスや趣向は、長年側に居ても理解不能だ」


それが原因でよく衝突していたが、それでも後に、そんなことが気にならないくらい好きになって。


―――今、またこうして出逢い、こうして近くにいられて、時々夢なんじゃないかと思うのだが。

夢ではないのだと、そう確かなものと思わせるのは、俺達の関係が"後輩"と"先輩"のままだということ。


関係を変えられないのは―――クルルに、婚約者が居るらしいから。


俺には出来なかった。
クルルの、普通の幸せを――未来を壊すことが。


昔のままのクルルだから好きなのではない。
勿論最初は、変わらないクルルが嬉しくて、昔のクルルを重ねた。

だが今は、昔のクルルが重なることはない。

今のクルルが、愛しい。


だがそれは、言わないと決めた。


「…ギロロ先輩ってさァ…」

「ん?」

「時々、俺のこと随分昔から知ってるみたいな口振りッスよね」

「……そうだったか?」

「誰かに似てるのかい?思い出すように話す時、優しい目ェしてるぜ」

「…そう、か」


…仕方ないだろう。

なあ、クルル。

俺はお前が好きなんだ。

伝えはしないが、想うくらいは良いだろう。


「妬けちまうねェ、ククッ」

「…妬けるのか」

「…何ニヤけてんすか」

「き……気のせいだろう」


…本心ではないと分かってる。
分かっているが、やはり反応してしまうんだ。

お前の一挙一動すべてが、気になって仕方ない。


「…ギーローローせーんぱーぁい」

「なんだ」

「昨日、婚約者とデートしてたんスよぉ」

「………そう、か」


…良かったじゃないか。

ああ、腹の中が黒くなる。


「カレー食いに行ってさ、まぁ美味かったんスけど」

「……」


…俺は、お前のカレーが美味いと思うが。


「んでね、俺、婚約破棄しちった」

「そうか………、……………ハァ!?」

「やっぱ合わなくてねェ」

「いや、おい、いいのか?そういう問題か?」


かなり動揺する俺とは裏腹に、クルルは楽しそうに笑う。

あまりに普通なものだから、よもや冗談なのかと思った時だ。


「…俺は、アンタがいい」

「……、な…に?」


…今、なんと言った?


俺は幻聴でも聞いているのだろうか。

小馬鹿にするような笑みではなく、少し拗ねたように赤くなったクルルは、俺の手をゆっくりと掴む。


「………クルル?」

「…アンタのせいで、俺の人生狂っちまった」

「な、何?俺が何を…」

「……………先輩、俺のこと好きになったりしない?」

「なっ…なあッ!?」

「……ギロロ先輩」


縋るような腕が首に回され、密着した体。

全身が火傷したみたいに熱く、心臓は今にも壊れてしまいそう。

クルルは何を言っているんだ、と思いかけたところで、昔のクルルと重なった。


甘える時は、いつも不安を抱えている時。

泣きそうな時は、こうやって顔を見えないようにして。


「……クルル」

「………アンタが悪い。思わせぶりな事ばっかしやがって…意識しないわけないだろ…」

「……っ」

「…なあ。気持ち悪いって思うなら…嫌いだったら、俺のこと突き放してくれよ」


震えた声。

思わず、俺はクルルを強く抱き締めた。


気持ち悪い訳がない。
嫌いなはずがあるか。


俺は、俺はずっと


「好きだクルル。愛してるんだ…っ」

「…!」

「ずっと言えなかった。お前との関係が壊れるのが怖くて、お前の未来を潰したくなくて」

「…せんぱい…」

「…クルル、好きだ…好きだ…っ」


情けないほど、涙が出た。

我慢していたものが一気に流れ落ちる感覚。

クルルの縋るような手が優しくなだめる手に変わり、それから身じろぎしたクルルが優しく笑った。


「……なあ、ギロロ先輩。もしかしたら、俺達の前世も、こうだったのかもしれねーな」

「…クルル?」

「アンタに抱き締められると、安心する…これが当たり前みたいに、すんなり受け入れられる」

「………」


クルルの言葉に、頷いてしまいそうだった。

前世からの繋がりがあるのだと、俺達はこうやって笑い合うことが好きだったのだと。


…言わないのは、そんな過去のことよりもこれからを大切にしていきたいから。


「…クルル」

「ん?」

「愛してる」

「……クク、ばーか。……俺も、愛してる」


クルルの、優しく紡がれた言葉。

心臓が高鳴るのと同時に、前世の記憶が薄れて行く。


それでもいい。

クルルを見つけることが出来たから。

クルルが俺を選んでくれただけで幸せだから。



だから、サヨナラだ。

前世の楽しかった日々たちよ。



















過去に想いを馳せるより

これからの未来を大切にしたい


なあ これからも、ずっと俺の側にいてくれないか


必ずまた、幸せだと言える日々を送るから



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