□あなたを一生幸せにします
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俺は今まで、意気地なしだった。

幸せにしたい奴が居るのに、幸せに出来る自信がなかった。


気持ちを伝えてもうまく伝わらなくて、何度も泣かせてしまう俺が幸せに出来るかどうかが分からなくて。


でも、その考え方自体が間違っていたと気付いたのは、悔しいが幼なじみの助言があってのことだった。


それは、侵略をする気のないケロロを怒鳴りに行ったとき。


「出来る出来ないじゃないっしょ、やるやらない。我輩は侵略出来るけど、やらないだけであります!」


あまりにいい加減な態度だった。
いつもなら重火器をぶっ放してやるところなのだが、ただその言葉に、ハッとしてしまった。


「(…出来る出来ないじゃない)」


幸せに"する"んだ。


意を固め、日向家に目を向ける。

ソファーに可愛らしく座る、愛しい姿。


「(…好きだ)」


愛しい。誰にも渡したくない。


「(……結婚、すれば…)」


白いウエディングドレスを着たクルルを想像する。

俺は男だ、なんてふてくされそうだが。


日向家の庭には、幼なじみが今朝に干した白いシーツ。

それを横目に、クルルへと近寄った。


「クルル、話があるんだが…ちょっといいか?」


クルルは俺を見ると、ほんの少し嬉しそうな顔をした。

その表情に惹かれ手を伸ばし、頬に触れる。


「ククッ…何?ギロロ先輩?」


クルルの手が重なった。

俺の体温とは異なって、僅かに冷たい手。

儚いと思った。
そして、愛おしいと思った。

頬を撫でていた手を離し、俺は庭に出る。


白くはためくシーツを取り、戻ってみるとクルルは顔を伏せていた。

――泣きそう、なのだろうか。

俺はまた何を泣かせることをしたのだろう。

不安になって、名前を呼んだ。

クルルは顔を上げようとはしない。

それがますます不安で、一瞬、決意が揺らぎそうだった。

それを踏みとどまって、シーツを広げる。


ゆっくりと顔を上げたクルルに、白いシーツを被せた。


「く、ぇ?ちょっと…!せんぱ……っ!?」

「お、落ち着け…!」


突然の事に暴れるクルルを、出来るだけ優しく抱き締めた。

次第におとなしくなったクルルの、心地いい温もりからそっと体を離す。

白いシーツをヴェールに見立て、ふわりとめくりあげた。

シーツから顔を覗かせるクルルへ、愛しさを込めたキスを贈る。


静かな日向家に吹いた優しい風にシーツが揺らぎ、その僅かな時間で俺はたくさんの音を聞いた気がした。

風の音、日向家の音、自転車が通り過ぎて、木々や草木が揺れる音。

それから二人の、速い鼓動。


唇を離し、額同士をくっつけて、今日まで練習してきた言葉を口にする。


「Will you marry me?」

「ぇ…は…?」

「結婚しよう…クルル」


…言えた。やっと言えた。

驚いた顔をしたクルルを強く抱きしめ、反応を待つ。


「な…なんでイキナリ…」

「…俺がしたいと思ったからだ…。駄目か?」


戸惑うクルルの様子に、ほんの少し不安になった。

それをかき消すように、クルルに愛が伝わるように、強く強く抱き締める。

愛してる。大好きなんだ。

だから側にいて欲しい。
ずっとずっと、お前と共に歩きたいんだ。


しばらくして、クルルが息を詰め、そして震えた声で問い掛ける。


「俺…男っすよ」

「知っている」


だから何だ。
俺はお前だから好きなんだ。


「俺、嫉妬深いですよ…」

「俺には勝てん」


知らないだろうが、お前と親しくする者は誰であろうと気に食わない。
パソコンにさえ嫉妬するんだ。
お前の目に俺がいないことが酷く寂しい。


「素直じゃ…っ、ないし…!」

「そこが好きなんだ」


ひねくれ者で、表面だけでは分からなくて。
けれど裏側は暖かく、いつだって優しい。

そんなお前を知ってから、俺はお前が愛しくなった。

今だって、泣きたいのに我慢して、そんなお前が愛しくて。


「いや、なヤツ…だし…っ!」

「クルル…」

「ぅ、く…っ!」


震える肩。
鼻を啜るクルル。

コイツはどうしてそこまで自信がないのだろうか。
こんなに、愛しているのに。

抱き締めた腕をゆるめ、クルルと視線を交える。

不安を宿す目に、苦笑した。


「お前がいいんだ。お前を愛している…。だから…大好きなお前を、酷く言わないでくれ…」


お前は嫌な奴だ。それは確かに変わらない事実。

けれどそれを承知した上で愛したんだ。
クルルが好きだから。

クルルを一生、俺が守ってやりたいから。


クルルの手を取り、見つめ合う。


この手を離さない。
一生、何があっても、どんなことがあっても。


「結婚してくれますか」


俺と生きて、ずっと俺の側に居て。


クルルは再び泣きそうに顔を歪ませた。

そうして、泣き顔と嬉しそうな顔でぐちゃぐちゃにしたあと、ゆっくりと笑って。


「…っはい…」


頷いたクルルに、俺はまたキスを贈った。



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